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薬局の質を可視化し、服薬指導の可能性を引き出す。Musubiを用いたクオリティ・インディケーターの研究とは?

カケハシが展開する電子薬歴・服薬指導サービス「Musubi」。そのデータを活用した研究論文が、「日本くすりと糖尿病学会誌(JAPANESE JOURNAL OF PHARMACEUTICAL AND DIABETES)」に原著として掲載されます。テーマは、『電子薬剤服用歴データを用いた血糖降下薬の服薬指導に関するクオリティインディケーターの算出プロセスの研究』。

  • “電子薬歴の記録を用いてクオリティ・インディケーターを評価した最初の研究である”

  • “医療の質を客観的に評価する指標について検討した研究であり、非常に重要な内容”

こうした評価が寄せられた本研究の成果を、ぜひ多くの方に知っていただきたい! ということで今回は、論文のメイン著者である工藤に、専門知識を補いながらかみくだいて解説してもらいました。

少々長くなりますが、「クオリティ・インディケーターって何?」というところから順を追ってお話していきますので、ぜひお付き合いください。

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プロフィール

工藤知也 Tomoya Kudo
金沢大学大学院医学系研究科がん医科学専攻修了。ケンタッキー大学医学部博士研究員を経て、臨床への強い関心から調剤薬局へ。その後、中尾と出会い、医療の仕組みそのものにアプローチする仕事を志すようになりカケハシへ。現在は服薬指導コンテンツ制作チームのマネジメントを担うとともに、Musubiのデータの医学的・薬学的活用について研究・探索を続けている。

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▼医療の質を可視化する—クオリティ・インディケーターとは何か?

—— 今回の研究について、まず「クオリティ・インディケーター」とは何なのか、というところから教えてもらえますか?

クオリティ・インディケーターとは、“医療の品質を評価するための定量的な指標のひとつ”です。

医療の現場では、いつまでに・どのような処置を施す必要があるかなど、患者さんに提供される医療行為について、疾患ごとに一定のガイドラインが定められています。そのガイドラインに沿った処置が施された患者さんの割合を、全体のパーセンテージでスコア化したものがクオリティ・インディケーター(QI)です。

一般的なクオリティ・インディケーターの計算式。特定の疾患・問題に関して、患者総数を分母に、提供されるべきケアがなされた患者数を分子において算出した数値がQIとなる。


「クオリティ・インディケーター」で検索するとヒットするのでぜひ一度ご覧になっていただきたいのですが、実は日本でも、すでにいくつかの病院が自主的にクオリティ・インディケーターの測定を行い、Webサイト等で公開しています。

世界をみるとさらに進んでおり、たとえばアメリカやオーストラリア、オランダなど、クオリティ・インディケーターの測定・開示を公的に行い、医療の質の向上に活用している国もあります。

—— クオリティ・インディケーターによって、医療の質が可視化されるんですね。

その通りです。数値として可視化されることで、自分たちの置かれた現状を正しく把握し、改善につなげていくことができるようになります。これこそがクオリティ・インディケーターの存在意義。ダイエットにおける体重や体脂肪率のようなものだと考えると分かりやすいかもしれませんね。

▼薬局におけるクオリティ・インディケーター活用の現在

—— 病院での活用は進んでいるとのことでしたが、薬局ではどうなんでしょう?

残念ながら、日本ではまだまだ……。薬剤師さんによる適切な服薬指導の有無(患者さんに対する薬効や服用方法、副作用などの説明)によって、薬局の質を可視化しようという試みこそありますが、薬局における実用レベルでの活用には至っていないのが現状だと思います。

というのも、クオリティ・インディケーターの測定に必要な“データ集計”に大きな課題があるのです。

特定の薬が処方された患者さんの数は? そのうち、薬剤師による適切な服薬指導がなされた患者さんの数は? こうしたデータを抽出するのに、多くの場合、処方せんと薬歴(薬剤師が行った調剤と服薬指導の内容を記録した文書)を一件ずつ確認して洗い出すという、マンパワーで解決する以外にやりようがないんですね。

大規模病院では専任の部署を設けて実行することも多いようですが、同じことを薬局に求めるのは現実的ではありません。必要なデータの抽出、特に薬剤師によって適切な服薬指導がなされたかどうかをいかにして判別し集計するかが、大きなハードルとなっています。

▼データ活用のカギを握る、Musubiの「指導文」機能

—— その課題に対する解決策を提示したのが、今回の研究というわけですね。

その通りです。具体的には、カケハシのメインプロダクトである電子薬歴・服薬指導システム「Musubi」のデータベースを活用したクオリティ・インディケーターの測定方法を、糖尿病患者さんに処方される血糖降下薬を例にまとめました。

Musubiには、薬局業務を通してさまざまなデータが蓄積されていきます。患者情報、処方データ、調剤データ、服薬指導の内容……もちろんすべてデジタルデータであり、それぞれ薬局単位・患者単位で整理され、ID管理されています。このデータベースを用いれば、大きな人手をかけることなく、クオリティ・インディケーターの測定に必要なデータを抽出し、集計・分析することができるのです。

なかでも特に重要なのが、Musubiならではの服薬指導データです。Musubiによる服薬指導には「指導文」という独自の機能があります。指導文とは、薬剤ごとに効能や注意点、副作用など患者さんに伝えるべきポイントを網羅したテキスト群です。

Musubiの画面には、患者さんの処方に応じた指導文が表示され、そのなかで薬剤師さんが実際に指導したものをチェックすると、指導済みの内容として薬歴に記録される仕組みとなっています。つまり、特定の服薬指導がなされたかどうかが、一件ずつデータとして記録されているわけです。

そのため、クオリティ・インディケーターの測定に必要な服薬指導の有無を、薬歴のテキストを解析したり一件ずつ確認したりすることなく、データベースから瞬時に取得することができます。

(参照)Musubiによる服薬指導


たとえば、喘息などで使われることの多い吸入薬が処方された患者さんに対して、吸入薬の使い方の詳細を説明したかどうかでクオリティ・インディケーターの計測をするとします。

計算式は次のとおりです。

従来であれば特定期間の全処方データと薬歴を確認し、該当する患者さんを洗い出していかなければなりません。しかし、Musubiのユーザー薬局ならデータベースから必要な数字を取得するだけで済みます。

この手法ならば、クオリティ・インディケーターを理論上のものではなく実用的な指標として、薬局の現場で活用することができるはずです。

▼薬局を変え、患者さんをも変える、クオリティ・インディケーターの可能性

—— 薬局におけるクオリティ・インディケーターの活用イメージは?

先述した病院の例と同じく、服薬指導の質を把握し、継続的な改善につなげるための指標として活用されることを想定しています。

一つは、店舗単位での活用が考えられると思います。特定のクオリティ・インディケーターを定点観測し、自店舗の質の向上に活かしていくイメージです。

また、薬剤師さん別・店舗別に算出した数値を比較することで、服薬指導のベストプラクティスを発見し、横展開することもできると思います。

さらには、よりマクロな観点から、地域別・薬局規模別・薬剤別などさまざまな切り口で集計することで、全体平均や傾向を探ることもできるでしょう。よりリアルな実態を踏まえた医療政策の検討材料としての活用にも期待をしています。

世界をみると、すでにクオリティ・インディケーターを用いて薬局のパフォーマンスを評価する動きが始まっています。特に顕著なのは、超高齢化社会へと差し掛かっているヨーロッパ諸国です。たとえばオランダでは、消費者団体と保険会社が実施主体となって、年1回のクオリティ・インディケーター測定が実施され、その結果が広く一般に公開されています。

薬局の協力は任意ですが、参加薬局には品質管理の認定証が付与されるため、測定への協力はもちろん品質向上に対する薬局のモチベーションは上がります。結果、クオリティ・インディケーターの全体スコアは毎年向上しているそうです。

—— クオリティ・インディケーターの存在が、実際に薬局の変化につながっているんですね。

その通りです。そして、そのヨーロッパ以上に高齢化が進んでいるのが日本です。より効果的・効率的な医療が求められるなかで、クオリティ・インディケーターの活用には非常に大きな可能性があると考えています。

まだ仮説の段階ではありますが、クオリティ・インディケーターのスコアが高い薬剤師さんから服薬指導を受けた患者さんのアドヒアランス(治療に積極的なこと)は高い、という傾向も見えてきています。

服薬指導のレベルが底上げされることによって、患者さんの行動が変わる。クオリティ・インディケーターの活用は、医療における薬局・薬剤師の介在価値を示し、高めることにもなるはずです。

とはいえ、まだ一歩目を踏み出したところ。今後もこの可能性をさらに突き詰めていきたいと考えています。共同研究や実証実験なども検討していますので、関心をお持ちいただけたらぜひお声がけいただけると嬉しいですね。

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