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「薬剤師の価値を可視化する」2年に渡るプロジェクトの舞台裏

カケハシではこのたび、薬局体験アシスタント「Musubi」を使った薬剤師の服薬指導が、緑内障治療薬のアドヒアランス(※)向上を実現したというニュースを発表しました。

薬剤師の服薬指導が患者さんの行動変容に貢献したことを示したこのプロジェクトを担当したのは、主に二人のメンバー。薬局のサポートからデータの分析まで幅広く取り組んだ薬剤師の伊藤と、データ活用の基盤構築をディレクションしたエンジニアの松田です。プロジェクト開始から成果発表までのストーリーを語ってもらいました。

(※)治療の意義や方針を理解・納得し、積極的に治療に参加すること

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“薬剤師の服薬指導が患者に価値をもたらすことを数値で検証

伊藤:私がこのプロジェクトに関わるようになったのは、入社直後の2018年夏頃です。当時、薬剤師としてMusubiの健康アドバイス向けコンテンツを制作していたのですが、コンサルティングファームで調査・分析を経験していたこともあり、声がかかりました。

私たちカケハシは「日本の医療体験を、しなやかに」をミッションに、薬局体験を向上すべく事業を推進しています。その中で、薬剤師による服薬指導の価値がしっかりと患者さんに届いているのか、客観的な数値にして表す必要性は以前から強く感じていました。

薬剤師がMusubiを活用した服薬指導を行い、それが患者さんのアドヒアランスにどのように影響するのか検証することは、薬局業界にとっても意義深いことだなと。

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大手シンクタンクから大手チェーン薬局での薬剤師経験を経てカケハシに参画した伊藤。現在はカスタマーサクセスを担当

“手つかずの宝の山”のようなデータを活用する基盤をつくる

伊藤:まずは半年間かけて、検証の方向性を決めていきました。当時はMusubiで蓄積されたデータの活用が限定的で、整備段階には至っていなかったんです。そこで、エンジニアの松田さんが対応してくれることになりました。

松田:プロジェクトが立ち上がった当初、抽出されたデータはあるものの、いわば“手つかずの宝の山”という状態。データ活用に向けた基盤の構築から始める必要がありました。

私の中では、いずれデータ活用によって、さらなる新しいサービスを生み出せると考えていたので、それを前倒しして進めることにした、という位置づけでしたね。

ちなみに、そのとき構築したデータ活用の基盤は、その後、薬局専用のBIツールである薬局業務“見える化”クラウド「Musubi Insight」の開発につながっています。

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大手ITベンチャーからカケハシに参画した松田。現在はMusubi Insightのスクラムマスターを担当

伊藤:データ活用の道筋がついたところで、2019年8月から半年間にわたってコンテンツの使用データを取得し始めました。手法は以下の通りです。

・特定の健康アドバイスをMusubiで提示し、薬剤師が服薬指導の際にそれを使って患者さんに説明
・対象となる薬剤を処方された患者さんが、どのくらいの頻度で薬局に再来するか、データを後から取得してアドヒアランスの指標を算出

一律にユーザー薬局へ呼びかけても、どの程度協力していただけるか分かりません。今回は「協力店舗」という枠組みでしっかり趣旨を説明し、ご協力いただく店舗を設定しました。この協力店舗へのフォローは、本プロジェクト成功のためのポイントのひとつ。対象となる薬剤をメインで処方している薬局がそれほど多くはなかったため、一軒ずつ電話をし、プロジェクトの意義をお伝えして協力を仰ぎました

ありがたいことに快諾いただいた店舗が多かったのですが、多忙な業務のなかで、Musubiを使った服薬指導が抜けてしまったり、指導をしてもシステムで報告するのを忘れてしまったりすることもあります。

そこで、松田さんにお願いして、薬剤の処方と服薬指導の状況のデータを毎週出してもらい、週ごとの数字を月報にして協力店舗とコンタクトをとるようにしていました。

松田:私が出したデータを伊藤さんが分析して、Excelで月報を作っていましたね。

伊藤:そうなんです。これが地味に大変で……。このためにExcelのマクロを学び、ボタン1つで整形されたデータが出力できるようにして、各店舗に送って……。協力店舗の皆さんには、催促してしまって申し訳なかったのですが、おかげさまでしっかりとプロジェクトを進めることができました。

データの分析も本当に大変でしたよね。松田さんのコードでの算出結果と私のエクセルでの算出結果を突合するものの、それが一致しないことも……。

松田:私は大学でも同様の研究をしており、数値検証は非常に時間がかかるものだと覚悟はしていました。同じ定義をして、同じ数値を使っても、プログラムを組んで算出した値とエクセルで出した値が合わないんです。この検証だけで2〜3週間は費やしましたよね。大学の頃は2〜3ヵ月かかって、最後にはエクセルすら信じられなくなって手計算していたこともあります。この仕事は伊藤さんと二人で取り組んで本当に良かったと思います。一人では難しかったでしょうね。

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薬剤師の関わりが、患者の治療成績やQOLの向上に貢献する

伊藤:薬剤師の方々に協力していただきながら、松田さんと二人で試行錯誤で取り組んできた分析作業でしたが、年齢など患者属性の影響や、協力店舗か否かといった店舗属性の影響などを排除してもしっかり結果が出たことで、さまざまな点で手応えを感じました。

薬や疾患の情報を薬剤師がしっかり伝えることで、患者さんの行動がより良い方向に変わるということが、「アドヒアランスの向上」という形で可視化されたということ……これはすなわち“治療効果につながる”ということであり、薬剤師の提供価値の一面を示すことができたのでは、と考えています。

また協力店舗の皆さんと話をするなかで、Musubiを使った服薬指導による、患者さんのさまざまな変化についても伺うことができました。多かったのは、長く同じ薬を使っている患者さんでも「Musubiを使った服薬指導によって、薬や疾患について初めて知ったことがある」という声です。

今回対象となった緑内障は、40歳以上は20人に1人が罹患するポピュラーな眼疾患。病気が進行すると失明につながり、日本人の視覚障害要因の第1位です。にもかかわらず、かなり進行するまで自覚症状がないことから、欠かさず正しく点眼できない患者さんが少なくないのが問題でした。今回、疾患について丁寧に説明できるビジュアルコンテンツを用意したことが、前述のような声に結び付いたのだと思います。「イラストがあるので使いやすい」という薬剤師側の声もありましたね。

また、アドヒアランスが低くなってしまうもう一つの要因が、副作用。今回対象としたプロスタグランジン製剤には、実は点眼後の拭き取りが甘いと肌に色素沈着が起こる副作用があるんです。自覚症状が少ないことに加え、このような目立つ副作用が、アドヒアランスに影響していると言われています。

この点眼薬は、添付文書ではいつ点眼しても良いことになっているのですが、「寝る前に点眼するように」と指示する医師が多い様子。しかし副作用を考えると、ふき取りよりも洗顔で洗い流す方が確実なので、夜なら入浴前、朝なら洗顔前に使うのがおすすめです。

その内容についても、今回のコンテンツで説明できるようにしたところ、患者さんが希望して用法が変更になった例もあったそうです。これは私たちにとっても嬉しい報告でした。

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松田:薬局経営の観点でも、患者の再来率の向上は大切な要素です。Musubiの健康アドバイスによって、顧客である患者さんとの関係維持が良好になったとデータで可視化されるようになれば、経営にも活用できますよね。薬剤師のコミュニケーションと患者さんの行動との関連性検証は、Musubi Insightで可能です。

伊藤:「薬局は薬をもらうだけの場所」という声も聞かれますが、これからは薬剤師が一歩進んで、積極的に患者さんとコミュニケーションを取りながら問題を解決していくという対人業務をやるべきだと言われています。

薬や疾患の情報を患者さん一人ひとりにあわせた形でお伝えすることで、患者さんの行動を変え、治療効果の向上やQOLの改善に貢献できる。今回のプロジェクトで得られた成果は、私たちカケハシの想いを裏付けする一つのファクトを提示するものになったんじゃないかと思います。

松田:患者さんに関わるのは薬剤師の役割。私たちカケハシは薬剤師と患者さんとの関係構築を、プロダクトで後押しするのが役割です。

今回データ活用の基盤を構築したことで、今後はここまで苦労せずとも検証できるようになりました。今後も薬剤師の業務支援や薬局経営支援を通じて、薬剤師と患者さん双方の薬局体験を向上させていきたいですね。

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