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担当者が明かす、カケハシ評価制度リニューアルの全貌と、これからの課題。

カケハシで人事を担当している黒田です。

この半年で、カケハシは評価制度を大きくリニューアルしました。今回はその背景や経緯、具体的な中身についてご紹介します。

カケハシは創業6年、シリーズBの調達を経て社員数は約250人の規模となり、ミドル〜レイターフェーズとして見られることも多くなりました。「大人ベンチャー」と呼ばれたり、人事制度もなぜかもろもろ整っていると思われたりすることが多いのですが、まだまだそのフェーズにないのが実情で、まさに今、現在進行形で全方位的に人事施策の強化を進めている最中です。

従来のカケハシの人事評価制度がスタートしたのは、2019年の夏(私も入社前)。50人規模の頃です。そこから3年の月日が経過し、組織フェーズも大きく変化してきました。制度に”ズレ”が生じてくるのは、ある意味で必然だったのかもしれません。内容が内容だけに少し長くなってしまいますが、ぜひお付き合いいただけると嬉しいです。

「給与テーブルの見直し」と「新たな評価・報酬制度の策定」

今回のリニューアルでは、2つの大きな制度変更を行いました。一つが、採用競争力を意識した給与テーブルの見直し。もう一つが、サービス開発職とビジネス職とでそれぞれ異なる評価・報酬制度の策定です。それぞれ詳しくみていきましょう。

1. 採用の機会損失をなくすための、給与テーブルの見直し

急成長・急拡大フェーズを辿るスタートアップにとって避けては通れないテーマだと思います。

前提として、これまでのカケハシの報酬水準もスタートアップの中で一定以上のレベルにはありました(平均年収734万円・社員数194人 /2021年11月時点)。しかしそれでも、昨今の採用市場の状況、レイターフェーズに近づくにあたって大手企業出身の候補者も増えること、上場までのタイムスケジュールを鑑みた際にストックオプションのインセンティブが相対的に下がることなどを考慮して、採用競争力を意識した給与テーブルや報酬体系へのアップデートが必要でした。

事実、採用オファーの水準は上昇傾向にあり、一方で既存社員とのバランスを優先した結果、選考辞退になってしまうケースも多々ありました。中でも、特に課題だったのが「早期」の選考辞退です。選考が進めば、業務内容やミッション・ビジョン・バリューへの共感から前向きに検討してくださる方がほとんどなのですが、エントリー前や一次フェーズなどで「金額が合わなそう」ということから辞退されてしまうこともしばしばあり、急拡大を目指すうえで大きな機会損失になっていました。

エージェントへのヒアリングで、採用マーケットを踏まえた給与テーブルに

現在の採用市場を正しく踏まえた設計を行うべく、以下の観点でリサーチを行いました。

  • 外部報酬サーベイ:Korn Ferry Payの活用(マクロな視点)

  • デスクリサーチ(採用競合中心)

  • 人材エージェントへのヒアリング

特に意義が大きかったと思ったのはエージェントへのヒアリングです。実際に複数の既存社員のレジュメを見て想定オファー金額を出してもらいました(もちろん、社員には了承を得ています)。通常の業務外での依頼となってしまうため申し訳ない気持ちで相談したのですが快く相談に乗ってくださり、おかげで説得力のあるマーケット感覚を得ることができました。

そうして決定した、新給与テーブルがこちら。

サービス開発職とビジネス職、2パターンの給与テーブル

サービス開発職(エンジニア、PdM、デザイナー等)とビジネス職(セールス、CS等)では市場価値のカーブが異なることから、2つの給与テーブルを用意しています。

なお今後も2〜3年に一度のペースで見直しをかける予定です。本当は毎年実施したいくらいですが、そこはROIとのバランスを考慮しつつ……。

2. ビジネスとサービス開発、それぞれに異なる評価・報酬制度

カケハシは創業以来「オープンかつフラットな組織」を志向して、階層を設けずに組織を運営してきました。ビジネス職もサービス開発職も一体となってスクラム開発を行っているようなイメージで「(組織管理者という意味での)マネージャー」という言葉もなかったくらいです。

そして、これまで評価制度は、”フラット”という組織概念と”人事評価”というややもすれば上下を想起させるようなイベントの共存にチャレンジしていました。

例えば、直属評価者に加えて周囲の声から評価を提案する「第三者評価」や「ピアフィードバック」、役員による全社員のキャリブレーション(相対比較)などです。

一方で、100人を越え200人に近づいたタイミングからは、サービス開発とビジネスとで組織の機能化が進み、役割が異なる組織のメンバーに対して横断的にキャリブレーションすることが難しくなっていました。そこで、サービス開発職とビジネス職、それぞれに適した評価・報酬制度の導入を検討することになったわけです。

社内を組織体制と人材タイプで分類することに。

まず全社共通の職務グレードを再構築

まずはサービス開発職・ビジネス職の双方に共通するグレードの定義について。General職→Management職 / Specialist職のラインで設計しています。

ミッショングレードと、全社員に共通して求められるバリューという2つの軸で整理

その上で、各グレードごとの要件定義を、スキル(専門性)、インパクト(課題解決)、レバレッジ(組織連携)という3要素で構成しました。

メンバー、スペシャリストのグレード定義表。マネジメントの定義は別途用意しています。

この3要素はこれまでの役員へのヒアリングから整理しましたが、ぶっちゃけると複数社の他社事例もおおよそ似たような要素でした(IT業界/SaaSのスタートアップにおいて、求められるコンピテンシーはある程度類似しているとも言えます)。

一方で、今回特に焦点をあてたいのはグレードアップのルールです。これまでのカケハシはフラットな組織であるがゆえに、人(=マネジメント)に裁量を持たせず、制度でルール化していました(例:S評価を2回連続で昇格検討など)。今回のリニューアルでは、ルールによる制約を緩和し、評価者とともにキャリアプランを作成してグレードアップにチャレンジできる制度へと変更しています。

ビジネス職に「成果給」を導入

ビジネス職においては、この成果給の導入が大きな目玉の一つです。何に対して評価と処遇を行うのか明示するとともに、人材マネジメントにおける柔軟性を高めました。

ビジネス職に、直近の成果に報いるための「成果給」を新設。

もともとはOTE(On-Taget Earnings。ベースとインセンティブで年収を構成する考え方)をセールスのみに導入する話もあがっていましたが、今後のビジネスストーリーやカケハシの社風も鑑みて、セールスのみのインセンティブプランではなく、ビジネス職全体に成果給(賞与)を設定する方が相性が良いと考えました。

成果給の算定ロジック。

成果給は、算定基準に対して個人評価と、チーム成果に応じた組織係数を掛け合わせて算定される仕組みです。比重は個人評価のほうを大きく取り、個人の突き抜けた成果についても、適切に汲み取れるようにしています。

サービス開発職の評価制度は、完全ボトムアップで策定

開発側の評価制度に関しては、エンジニア・デザイナー・PdM/PMM・開発ディレクター・ドメインエキスパートそれぞれの代表者とHRBPがプロジェクトチームを組み、完全なるボトムアップで作り上げました。一つのプロダクトとして制度を”開発”したそのプロセスについては別途記載していますので、興味のある方はぜひご覧ください。(開発組織の文化が感じられる内容になっているかと思います。)

“さまざまな職種のメンバーがスクラムを組んでこれまでにない価値を創出する”ことをテーマに、2つの仮説(制度案)を立てました。

6ヶ月ごとの目標設定を排除し、チーム評価を新たに導入。

(ポイント1) 評価シートから目標欄を排除。1on1で常にアップデートする運用に

そもそもアジャイル開発を行うチームにおいて半年先の個人目標を設定することに、多くのメンバーが難易度の高さを感じていました。もちろん状況に応じて目標を更新すればよいのですが、そのつど評価シートに落とし込まなければならないとするのは極めて非効率です。それよりも、むしろ目標に関するアクティビティは普段の導線に組み込まれているべきだと考え、思い切って評価シートから目標設定欄を削除し、1on1(個人面談)で常にアップデートする運用に切り替えました。

各人の探索的学習やチャレンジを促進するために、目標を「常にアップデートされるもの」として再定義。

フォーマットを指定して目標管理するのではなく、日々のコミュニケーションをサポートするガイドラインを用意して、各自で管理する方針にしています。

* Adobe社のCheck-inを参考にしました。

(ポイント2) 従来の個人評価に加えて、「チーム評価」を新設

サービス開発職は、「個人評価」と「チーム評価」を組み合わせた評価制度に。

ユーザーへの価値提供を異職種のチームで成すことが前提にあれば、チーム単位で評価されることへの納得度は高いだろうと考えました。チームと個人の両方の評価を共存させるために、チームへの評価は賞与扱いとしています。

また、プロダクト開発と横断的な基盤開発といったように、チームによって求められる役割が明確に異なる場合のキャリブレーションが難しいと考えられるため、チーム評価は絶対評価での運用としています(個人評価は職種ごとにキャリブレーションを実施)。このチーム評価の導入は、社員からも好意的な声が多かったです。

まとめ:とはいえ、理想の評価には“もうひとつ”の観点が必要

以上が、カケハシの評価制度リニューアルの全貌です。今回の取り組みを通して、現在と少し未来のカケハシにとって必要な制度の形に、ある程度は近づけたのかなと思います(常にメンテナンスと定期的なアップデートが必要であることは前提として)。

一方で、これまでの評価制度に対するもやもやがすべて解決されたかといえば、そうではないことにも気がつきました。そもそも論になってしまうかもしれませんが、(特に拡大期の)スタートアップにおける適切な人事評価の難易度の高さ、いわゆる運用の難しさの問題です。納得感を生む難しさと言い換えてもいいかもしれません。どのような制度であったとしても、そこに人間の判断が入る以上、評価は主観です。その主観の曖昧性の解消とその先にある納得感の醸成に向けて、評価者には被評価者を”正しく見る”ことが求められますが、現実にはスタートアップのマネージャーが十分に人事評価にリソースを避くことが難しいという局面に、これまで何度となく出会ってきました

人事評価は運用8割とよく言われますが、運用に十分な組織体制が構築されてこそだと感じます。もちろん人事評価のために組織があるわけではありませんが、どちらか片方だけを見ていては、きっと本質的な問題解決はできないのでしょう。カケハシでも、適正人数に向けた組織設計やそれを実現する採用と育成など周辺領域も含めた広義で人事評価を捉え、組織と事業を成長させるための評価制度のあり方を引き続き模索していきたいと思っています。

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