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僕はカケハシに、日本版Value Based Healthcareの可能性をみた。

こんにちは。カケハシの西田です。2022年5月にジョインし、現在は執行役員として新たなサービス立ち上げに向けた事業開発を担当しています。

社内外にきちんとご挨拶しようと思っていたら、あっという間に半年以上が過ぎていました……(本当にすみません)

ちょうどカケハシとしてネクストステップに向けた資金調達を発表したこともあり、ここで改めて、なぜ私がカケハシにいるのか、カケハシは何を成し遂げようとしているのか、ご挨拶に代えてお伝えできればと思います。

西田庄吾 Shogo Nishida
東京工業大学工学部卒業後、日産自動車株式会社でのスポーツカー開発を経て、ボストン コンサルティング グループへ。Managing Director and Partnerとして、ヘルスケア領域で製薬・医療機器メーカーのグローバル組織・ガバナンス構築、生産・サプライチェーン改革を中心にさまざまな事業・機能・地域の経営課題解決や、官庁や業界団体の政策立案に携わる。2022年より株式会社カケハシに参画し、執行役員に就任。

医薬品市場にみる、日本の医療の構造的課題

前職のBCGでは広くヘルスケア領域に携わってきましたが、特に10年以上にわたって担当していたのが、国内製薬企業のグローバル化支援。グローバル化に向けた組織ガバナンス構築や、開発・メディカルの観点でもマーケティングの観点でも特に重要となるアメリカでの体制構築に関するプロジェクトでした。

というのも、製薬企業にとっては新たな医薬品を創造し、その価値を最大化することが事業活動の生命線。イノベーティブな製品が特に高く評価されるのがアメリカであり、医薬品市場の規模も他国と比較にならないのです。

まず市場規模ですが、世界2位の中国ですらアメリカの3割にも及びません。一方、かつてはアメリカに次ぐ市場規模を有していた日本ですが、今や世界3位に。2026年にはドイツに抜かれ4位に後退するという予測もあり、過去5年での成長率はマイナス0.5%と主要国の中でも最低水準に沈んでいます。

また特に重要な価格(薬価)の設定に関しても、イノベーティブな製品への評価が高いのがアメリカです。日本でもイノベーションへの評価の仕組みが構築されていたものの、拡大再算定(ある医薬品の年間販売額が一定基準を超えた際に、その薬価が引き下げられる制度)をはじめ薬剤費適正化に向けた各種制度の導入により、結果として新薬の価値が抑制され、製薬企業にとって不確実性の高い状況となっています。

これが何を意味しているのか。

製薬企業にとって、日本というマーケットがもはや魅力を失いつつあるということです。

私自身、国内外の製薬企業各社とご一緒する機会をいただきましたが、はっきりとその流れを感じました。高い公益性を伴うとはいえ、製薬企業も民間の一企業。市場規模と価格の観点で、日本で新薬を展開する経済合理性がない、あるいは不確実性が高ければ、究極的にはその薬が新薬の段階で日本に入ってくることはなくなるのです。むしろ、ドラッグ・ラグ、ドラッグ・ロスという形で、問題はすでに顕在化しています。

世界との間に広がりつつある医療格差に一個人として大きな危機感を覚えたことが、私自身のキャリアの転機になりました。私にも、3歳の娘がいます。子どもたちの世代、そしてその先に続く世代のためにも、日本の医療システムの課題を解決したい。この思いが、今の私の原動力になっています。

日本の医療システムは改善可能か?

ご存知のとおり、日本の医療は国民皆保険制度の上に成り立っています。これによりすべての国民が「いつでも」「どこでも」一定レベルの医療サービスを受けることができるという、すばらしいシステムです。

たとえば、アメリカは100%自由診療。公的な医療保険は高齢者と低所得者向けのものしか存在せず、現役世代は民間の医療保険に加入するのがスタンダードです。そして加入している保険によって、使える病院・医薬品は限定されます。

医療が完全な市場原理に委ねられた結果としての医療費や医薬品価格の高騰とそれによる国内の医療格差は、アメリカの大きな社会課題の一つとなっています。(しかしこの市場性があるからこそ、最先端の医療・新薬がアメリカからスタートするのもまた事実です)

さて、日本が世界に誇る皆保険も、少子高齢化や医療技術の進展、新薬の高額化等による国民医療費の膨張から、すでに制度的な変化が求められているのは周知のとおりです。私としても、医療費・社会保障費全体をどのように最適化していくか、つまり医療費・社会保障費の適正配分という観点から既存の医療システムを改善することは可能だと考えています。

その大元にあるのが、世界の医療の新基軸になりつつある、Value Based Healthcare という考え方です。

提供価値に基づいて医療を最適化する

Value Based Healthcare(VBHC)とは、医療を「患者価値の最大化」という軸で最適化しようという考え方です。

VBHCでは患者価値を、

[患者価値] = [包括的なアウトカム] ÷ [予防・診断・治療・予後に要する包括的なコスト]

という計算式で定義します。
これにより、あらゆる医療サービスの目的が患者のアウトカム(医療サービスの結果・成果)の最大化と、コストの最小化(適正化)に集約されます。

“包括的”というのがポイントで、コストであれば、例えば再発したことにより発生するコストや、本人・家族・そのほか看護・介護に関わる人たちが働けなくなったことで発生する労働生産性のロスも含まれます。

この目的を国や医療機関、製薬企業、医療機器メーカーなどすべてのプレイヤーが共有し、患者に対して包括的にアプローチしていく。医療の価値を定義し絶対的な目的とすることで、各プレイヤーの利害の衝突をなくし、連携を促進して、全体最適による高効率化を実現するわけです。

医療サービスを「何をしたか」ではなく、「それが患者にどんな効果をもたらしたか」で評価できるようになれば、限られた医療財源を本当に価値のあるものに配分することができます。それは非効率な医療への支出を抑えるという意味で医療費の膨張に歯止めをかけることであり、さらに言えば、価値のある新薬に適正な薬価がつくという意味で日本の医薬品市場の世界的な競争力を回復するということでもあります。

そして、この考え方が何よりすばらしいのは、「病気になる前に対処すること」「患者の健康を維持すること」の経済合理性が高まる点です。現行の保険点数制度は、予防や未病ケアよりも、治療・処方することで保険償還されるものが多くなっています。これは誤解を恐れずに言えば、日本の医療制度の設計として「病気になった患者さんを治療する」ことへのインセンティブが高く、「患者さんを病気にしない」ことへのインセンティブをもつプレイヤーが少ないということです。

果たしてそれが、医療を進化に導くための、正しいインセンティブ設計と言えるのか。

私はこのVBHCという考え方こそが、皆保険制度以来の日本の医療システムをアップデートするカギであり、日本が高齢化社会の世界的なロールモデルを構築するための重要なコンセプトになりうるものだと考えています。

患者価値を測るための“データ”はどこにあるのか?

とはいえ、VBHCの実践には大きな課題があります。今の日本の医療システムの中では、患者価値の測定に必要なデータが集積・整理されていないのです。

病院やクリニック単位、薬局の法人単位でデータは蓄積されてはいるものの、そのデータは医療機関をまたいで統合されているわけではありません。当然ながら患者さんはご自身の都合にあわせてさまざまな医療機関を利用されるので、「その患者さんがどのような医療サービスを受けたのか」「どのようなアウトカムに至ったのか」を、発症前から寛解に至る一貫したペイシェント・ジャーニーの上でトラッキングすることができないのです。

アメリカでは、こうしたデータを民間の医療保険事業者(保険者)が保有しており、すベての国民ではないもののかなりの割合をカバーしています。自社の保険サービスの加入者がどのような検診・治療・処方を受けたのか、その結果どうなったのか、どれだけ費用を支払ったのかが一気通貫でデータとなっているのです。そしてそれを医療データとして活用することが、保険者のビジネスの一つになっています。

こうしたアメリカの保険者のようなデータを、日本においてどのように取得し、利活用していくか。私自身、具体的なアプローチを模索するなかで出会ったのが、カケハシでした。

実は私、それまでカケハシの存在を全く知らなかったのですが(カケハシのみんな、ごめんなさい)、事業と将来の構想を知るにつれ「なるほど、ここに可能性があったのか」と膝を打ちました。

カケハシは、薬局DXをコンセプトに、処方対応・患者フォローといった薬局の基幹業務に深く根差したプロダクトを提供しています。そしてユーザー薬局の皆さまは、カケハシのプロダクトを使って、日々いらっしゃる患者さんに対応されています。

これが何を意味するかというと、カケハシの各プロダクトをインターフェースとして、実処方を含めた患者さん個別のデータが一元的に集積されているということです。

患者さんが受けた一連の医療サービスとそのアウトカムに関する情報が、全国の薬局を通じて収集され、複数の医療機関をまたぐ一貫したデータとして患者単位で蓄積されていく。カケハシの中に、そんな仕組みができつつあるのです。

メインプロダクトであるMusubiのユーザー薬局は今では7,000店舗を超え、全国の薬局の約10%に広がっています。さらにPocket Musubiという患者フォロープロダクトの展開も始まり、より深い介入による患者データまでカバーされはじめています。

今後のユーザー規模の拡大次第ではありますが、私はこれが、日本版VBHCの基盤となる患者接点・データプラットフォームの一つになり得ると思っています。

カケハシは、ディスラプターではなく“コネクター”

お気づきのとおり、この患者接点・データプラットフォームの構築・活用には、薬局はもちろん、医療機関、製薬・医療機器メーカー、医薬品卸、官公庁などさまざまなプレイヤーとの連携が不可欠です。スタートアップの多くが既存産業をディスラプトする立場をとる中で、カケハシのスタンスとビジネスモデルは、ある意味で“スタートアップらしくない”というか、とてもユニークなものだと感じています。

私自身はカケハシを、既存のプレイヤー同士をつなぐ存在としてイメージしています(だから“カケハシ”なんですね)。薬局、医療機関、製薬・医療機器メーカー、医薬品卸、官公庁、そのほか医療に関わるさまざまなプレイヤーが、患者接点・データという共通の基盤のうえで相関しあうことによって、医療システムを進化させていく。

日本の医療制度は世界にまたとない、すばらしいものです。だからこそ、破壊を伴う再構築ではなく、優れた部分を活かしつつこれからの時代にあわせて最適化する“アップデート”というアプローチが必要だと思います。

非常に難しいチャレンジです。しかし、だからこそ仕事人生をかけて取り組む意味がある。カケハシのミッションにある「しなやかな医療体験」は、今や私自身のパーパスでもあります。日本の医療の次世代化に少しでも貢献できるよう、全力をつくします!

(新たな取り組みの具体についても追ってお伝えしていきます!)

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