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「地域に貢献」を数値管理!? ただの掛け声にしない組織戦略とは?

薬局・薬剤師のコミュニティ「MusuViva!」で2ヶ月に1度開催される薬剤師のオンライントークライブ「Viva! Cast 〜調剤室の小窓から」。

2023年6月に開催された第7回では、前回に引き続き、三重県松阪市の「株式会社メディカルリンク」楢井慎さん、そして楢井さんのオファーをうけた、鳥取県鳥取市の「有限会社徳吉薬局」徳吉雄三さんをお招きしてトークライブを開催しました。

地域のニーズに沿って病児保育など先進的な取り組みを行う徳吉さんと、管理栄養士のカフェや地域イベントなども積極的に行う楢井さん。それぞれ「三重県」「鳥取県」以外には出店しない、と固く決めているという共通点もあります。それぞれのビジョンや採用・組織戦略の考え方、地域活動とブランディングなど、経営で大事にしていることをお話いただきました。

<スピーカー>
株式会社メディカルリンク 代表取締役社長 楢井慎さん
有限会社徳吉薬局 役員 徳吉雄三さん

<モデレーター>
株式会社メタルファーマシー 代表取締役 川野義光さん


「地域医療への貢献」を掲げる2薬局

川野:みなさま、こんにちは。大人気とは言わないけど意外とファンがいたりする番組「Viva! Cast 調剤室の小窓から」の第7回を開催していきたいと思います。ゲストは、前回に引き続きメディカルリンクの楢井さん、そして、徳吉薬局の徳吉さんにお越しいただきました。それぞれ、簡単に自己紹介をお願いできますか?

楢井: 三重県で株式会社メディカルリンクという調剤薬局をやっています、楢井慎と申します。趣味は登山です。今日はよろしくお願いします。

徳吉:鳥取県で徳吉薬局を経営しております、徳吉雄三といいます。私は兄弟が三つ子で、3番目なので、雄三と名付けられました。鳥取出身、鳥取育ちの45歳です。よろしくお願いします。

川野:ありがとうございます。毎回「Viva! Cast」ではオリジナルのあだ名をプレゼントさせていただいているのですが……前回ゲストの楢井さんには“脇見る男(わきみるお)”とつけさせていただきました。

楢井さんは、結構いろいろと突っ込んでいく・走っていくタイプだなと感じています。僕も似たようなタイプなんですが……。で、そういうタイプだと、結構脇が甘い方が結構いると思うんですよ。というか、僕はめちゃくちゃそうなんですけれど。

その点、楢井さんは走りながらもちゃんと脇を見ている方だな、丁寧にされているなと、いう印象があったので、“脇見る男“とつけさせていただきました。そして、今回のニューカマー・徳吉さんのあだ名は、“ドラえもんコラボ”とさせていただきました。由来は次回お伝えできたらと思いますので、楽しみにしていてくださいね。

さて、それでは本編に移っていきましょう。楢井さん、今回、徳吉さんにお声がけをした背景を教えていただけますか?

楢井:はい。実はメディカルリンクでは、三重県以外に出店しないという宣言をしており「三重県の地域医療に貢献する」をテーマとして薬局経営をしています。そんななか、あるとき徳吉さんのお話を伺った際に、同じように「鳥取から出ない宣言」をしているという話をされていたんです。また、薬局の通常機能にとどまらない取り組みをされていることにも感銘を受けました。

そこで、実際どのようなことに苦労されて今の状態まできたのか、いろいろとヒントをいただけたらなと思ってゲストをお願いしたんです。なので、個人的にすごく今日の場を楽しみにしてきました。

川野:ありがとうございます。共通点が多いお二人ということなんですね。では、そんな楢井さんから、ぜひ徳吉さんを深掘りしていただければと思います。


薬局以上の存在へ──“More Than A Pharmacy”に込めた思い

楢井:まず、徳吉さんが掲げられている「More Than A Pharmacy」という企業理念について教えてください。いったいどういう意図があって作られたのでしょうか。


徳吉:あれは、サッカークラブ・FCバルセロナが掲げる「More Than a Club(クラブ以上の存在)」をなぞって作りました。昔、バルセロナの人たちは政府から迫害されていたんですが、ピッチのなかでだけは、自分たちの言葉を使うことができたというエピソードがあったそうなんです。

そんな背景から生まれた「More Than a Club」というフレーズにとても感銘をうけて、私たちも一般的な6万軒の薬局以上の存在──すなわち“a Pharmacy”から“the Pharmacy”への転換を果たして、地域の人々に選んでもらえるようにと「More Than A Pharmacy」を掲げました。

患者さんにお薬をお渡しするような基本的な薬局機能だけじゃなく、いろいろサービスを提供することで「あの徳吉薬局さんなら」と思ってもらえる存在になりたいんですよね

楢井:いいですね。うちの会社は「お薬だけではなく、健康に生きることそのものを提供する。そのために三重県に存在している」というパーパスを掲げているので、徳吉さんと似たようなゴールを目指しているのかなと思っています。

病児保育の取り組みをはじめとした、お薬にまつわる以外の事業に取り組まれているのも、こうした理念があるからこそなんですね。

徳吉:そうですね。こうした地域課題を解決することも企業としての使命だと思っているので、その課題を解決するためのサービスを、薬局を通して届けていきたいと考えています。その意志をかたちにした例の一つが病児保育です。始めてから、もう7年になりますね。

実は以前、海外薬局の視察に行ったり、ビジネスも学んだこともあるんですが、その際に「今後、薬局だけを経営しないといけないのか?」「薬剤師の仕事だけをしないといけないのか?」と少しモヤモヤしていたことがあったんです。

でも「いや、そんなことはないな」とだんだん思うようになってきて。その頃にちょうど「病児保育が足りなくてお母さんたちが困っている」という話を現場の薬剤師から聞いたんです。

実際にその話についてお母さんに聞いたり、いろいろ調べるなかで「地域課題を薬局以外のアプローチで解決したい」という自分の気持ちとぴったりと合っていると感じたんですよね。会社のみんなも賛成してくれたので、無事に始めることができました。


新しいことを始めるときの「社内への説明」はどうしている?

楢井:僕はこの業界にきてから9年くらい経つんですが、最初に事業として始めたのが「管理栄養士の採用」でした。でも、周りの薬局経営者さんから「管理栄養士を採用しても算定できない。どうやってマネタイズするのか?」と聞かれることがあるし、社内でも「なぜやるのか」を説明する必要があったりするんですよね。

そのあたり徳吉先生はどうされているんでしょうか。病児保育や管理栄養士の採用など、薬局の核となる事業ではないけれども“More Than A Pharmacy”な部分を実践するにあたって、説明するときに大切にしていることはありますか?

徳吉:管理栄養士については、正直ノリで始まったんですよね(笑)。

一同:(笑)

徳吉:というのも、薬剤師として仕事をするなかで限界を感じていることの一つが、患者さんに対する日々の食事のサポートだったんです。もちろん、薬剤師も栄養のことについて勉強することはありますが、患者さんに説明したとしても、食事として食べてもらうためのアプローチは難しい。だから「管理栄養士さんがいたら面白いんじゃない?」という意見が自然と出てきて。そんな流れで、まず2名採用してみました。

採用後は「管理栄養士さんにいろいろ聞いてみてください」と薬剤師スタッフに伝えることで、管理栄養士さんの知識量を知ってもらい、だんだんと必要性を伝えていった感じなんですよね。逆にいうと「この管理栄養士さんを採用して、こういうビジネスをやるんだ」みたいなことは一切言わなかったです。

楢井:へえ、そうなんですね。

徳吉:それからは、患者さんに向けても徐々に「栄養指導できますよ」というPRをしていきました。最初は無償で行っていたので、やっぱり社内では「マネタイズできるんですか?」という声が聞こえてきたこともあります。そのときは「我々は薬局だけど、やっぱり大事なのは薬と栄養だと思っている。その栄養観点を管理栄養士の取り組みで強化しているのだから」と必要性を伝えていました。

算定できない以上は、目先のマネタイズが難しいのも明白です。でも、薬剤師にとっての学びや患者さんへの栄養相談には、利益以上の価値があると捉えていたので続けてきたんです。今となっては、栄養ケアステーションの認定制度ができたり、病院とクリニックとが連携することで外来栄養食事指導料を受けられている店舗も出ているので、長い期間待ってきてよかったなと思っています。

ただ、すみません。最初はノリで始めました、という話なんですよね。

楢井:いや、正直いうと、僕も最初はノリだったんです。しかも、僕も2人の管理栄養士を採用することから始めました(笑)。

今となっては、20人ほどの管理栄養士が在籍しており、この4月からは、栄養ケアステーションも立ち上げました。マネタイズできるかと言われたらたしかにできないんですが、薬局の差別化になって、地域の方から選ばれるようになるのがビジネス上の着地点かなと思っています。

なにより、徳吉さんのおっしゃるとおり「選ばれる薬局になる」ということを社内に浸透させていったり、地域の方に「普通とはちょっと違う薬局」だと認識してもらうためには、管理栄養士さんの存在がすごく大きな役割を果たしていると思います。

徳吉:そうですよね。ちなみに僕たちは、管理栄養士を採用するうえで「事務職の仕事はさせない」と決めていました。

楢井:素晴らしいですね。うちは、まだちょっと頑張りきれていない部分ですね

川野:僕も途中なんですよね。というのも、僕もちょうど今年から、ノリで管理栄養士さんを採用したんですよ。

一同:(笑)

川野:リアルタイムな話だったので、お二人の話がめちゃくちゃ参考になります。全部メモしましたよ。

ところで、管理栄養士の採用のような行動もそうですが、お二人は理念や想いがすごく共通していますよね。県外に出ないというような「しない宣言」を設定しようと思った背景や、やってみて実際どうかなどって、教えていただいてもいいですか?

楢井:いろいろありますけど、やっぱり従業員の方々が目標を持って働きやすいところでしょうか。僕たちは、6年後の3月までに「三重県の地域医療に貢献する一番の薬局になる」と決めています。

もちろん三重県にこだわる必要はないといえばないんですが、期限と範囲を決めるとやることも明確になってくるし、行政や地域住民の方々に対してメッセージを届けるときにも、非常にわかりやすくなる。そういう組織作りみたいな側面から「しない宣言」をしました。

徳吉:僕が経営に携わって、やらない・しないことを決めたとき、一番に考えたのが「鳥取県から出ないこと」でした。そもそも、鳥取でビジネスが成立しているのは、鳥取の方に利用していただいているからなので、恩返しのような気持ちで鳥取に集中したいというのがまず一つあります。

それと、もう一つは、戦略的に言えばドミナント展開です。たとえば、大手の調剤薬局さんって、全国1,000店舗あっても、ある地域に行けば数店舗しかなくなります。1店舗だけの地域もありますよね。ドミナント展開をすることで、その地域でのフラッグシップ薬局になれるでしょうし、それが、中小薬局である我々の強みを発揮できる戦略の一つと考えています。

薬局以外の会社の経営者さんなど、いろいろな方にこの話をしていますが、見方はさまざまなんですよ。「成長を鈍化させるんじゃないか」と、反対意見をいただくこともあります。ただ、我々としては地域をベースにした成長を描きたいと思っているので、鳥取からは出ないという意志を貫いています。

楢井:共感します。薬局は全国に6万店舗ありますが、100店舗未満の小規模薬局がまだ60%もあるんですよね。地域密着は地域医療という文脈からすごく大切なことだと思っているし、報酬点数で表現されていないようなニーズってまだまだいっぱいあるじゃないですか。こういうところを担う存在が地域地域にあることが、本当の意味での地域医療福祉にとっては重要です。

なので、マネタイズもできていて、かつ地域にとって良いことできている薬局が生まれて、それが他の都道府県の薬局さんにもいい意味で真似されていくのが良いんじゃないかと個人的には考えています。地元の薬局にしかできないことって、きっとあるんじゃないかと思いますよ。

川野:めっちゃかっこいいですね。今のお話を聞いていたら、薬局を全部閉めて、一つのエリアに集中したいななんて思っちゃいました(笑)。


「地域への貢献度」を測る、薬局のKPIとは?

楢井:今日、一番お聞きしたいことを質問させてください。徳吉先生の話で一番感銘を受けたのが、KPIやKGIを設定していること。つまり、地域への貢献度合いをきちんと数値化して追いかけておられることです。

やっぱり“良いこと”をやるだけでは薬局経営って続けられないじゃないですか。良いことをやった結果が、きちんと成果・利益にもなっていくことが、良い取り組みを続けるためには必要ですよね。

僕も処方箋枚数とかではなく“良いこと”を通して、成果にも繋がるような評価指標を置きたくて、自分なりにすごく考えているところなんですが、結構難しくて。徳吉先生は、そのために「地域におけるシェアの度合い」を指標に置いていると伺って、すごくいいなと思いました。そういった数値は評価にも使われているのか、また、従業員の反応はどうなのかなどをお聞きしたいです。

徳吉:そうですね。まず考え方としては、よくある「処方箋単価×患者数=売り上げ」ということではなく、自分たちの「価値」を意識しています。その際、自分たちの価値とはなにかを考えたときに、我々の場合は「店舗から半径500mぐらいの地域の患者さんが何%来局しているのか」を指標として出しました。半年に1回くらいのペースで計測し、定点観測していこうかなと思っています。

指標として出す前はみんな肌感覚でしかわからなくて、「あの人も来ているし、この人も来ているし」と、比較的地域の患者さんが多く来局しているんじゃないかと思っていました。ところが、実際に数値として算出してみると、平均30%、多い薬局でも38%。「思っていたよりも低いな」と現場のスタッフ自身が感じたわけです。

楢井:なるほど。30%は、随分と高い気もしますけれどね。

徳吉:まあ受診している科や、そもそも病院に通っていない方もいらっしゃるので、なんともところはありますね。ただ、数字があると、その数字の捉え方をスタッフと話し合う機会が作れたり、シェアを上げるにはどうしたらいいかと考えることができる。そういう点から見ると、数値を出す意味はすごくあったかなと思っています。でも、まだ評価には繋げていないんです。

楢井:そうなんですね。

徳吉:評価のために数字を追うよりも、数字を出すことで、スタッフ同士の意志統一ができたらいいなと思っています。少ないなと衝撃を受けた人もいれば、意外と多いなと思った人もいるので。

楢井:定点観測をしていくと変化がわかるので、やりがいにもつながりそうですね。

徳吉:そうですね。数値化すると、たとえば「どうしたら50%になるのか」「仮に100%を目指すとしたら、なにをすることが大事なのか」を考えることができますよね。企業が地域活動をしている目的は、一人ひとりの薬剤師さんや一つひとつの店舗が、そういうことを達成できるようなことを裏から支えるためだと思っています。

もちろん地域活動は社会貢献という意味もありますが、裏側の意図としては「徳吉薬局さんだったら」と思ってもらえるようなブランドを確立するためっていうのもあるので。

楢井:良いことをしていたり、その質が高いことはもちろん大前提ですが、それが“伝わる”こともやっぱり大事ですよね。

徳吉:そうですね。今、地域活動のときにはアンケートを取っているんです。その患者さんが普段赴いている店舗を同意のうえで記載してもらい、その店舗の薬歴には「何月何日にイベントに来られました」と記載してもらう。

そうすることで、次にその患者さんが来局されたときに「イベントに来てくださったんですね」と言ってもらえるようにしているんです。そうすると、患者さんと自然に話が広がるし。この取り組みはすごく面白いなって思いますし、自分でもそういった流れで患者さんとのコミュニケーションを実践しています。

楢井:本当にそうですよね。まだ来ていない方を無理に店舗に呼ぶのは大変ですが、来てもらっている方により知ってもらうところから始めるなら、ハードルも低いです。患者さんとの関わり方も変わってくると思うんですよね。

徳吉:そうなんですよ。実際に関わり方が変わって、仲良くなった患者さんもいますね。今まではずっとムスッとしていた患者さんにイベントの話を振ってみたら、びっくりした様子をしながらも「そうそうそう!」と打ち解けてくれて。

楢井:へぇ~。本当はシャイな方だったんですね。

徳吉:そうなんですよ。「男の料理教室」っていうイベントに来られた方なんですけれどね。

楢井: なるほど、それはちょっと恥ずかしかったかもしれないですね(笑)。そういう方が近所の方に口コミを広げてくれたりするのが、最高の集客ですもんね。そっかあ〜いいですね、アンケート。ちょっと真似させていただきたいと思います。

徳吉:はい、すごく面白いと思いますのでぜひ。

楢井:僕にも、一つ夢があるんです。というのも、三重県は田舎でスタバがあんまりないので、スタバができると「スタバがきた!」って盛り上がるんですよ。そんな感じで、まだ出店していない三重県内の地域に薬局をオープンさせて「健やか薬局がうちにも来た!」みたいに言われるようにしていきたいなと。なので、今のお話がすごく勉強になりました。


点数がついていないことこそ、ニーズに応えてブルーオーシャンを狙う

徳吉:「しない宣言」の他の例としては、介護施設はやらない、M&Aもしないし応じない、があります。介護施設は我々にとってのお客さんでありますが、薬で貢献するのが薬局の役割だと思っているので。

楢井:なるほど。支える側に回ろうということですね。

徳吉:そうですね。基本的にはそのスタンスかなと思っています。介護施設はレッドオーシャンでもありますし、職員さんたちのお話によると、薬局と介護施設では組織もまったく違っているらしくて。おそらく病院のような組織なのではと思いますけど、我々にはちょっと難しいなと肌で感じていますね。

楢井:純粋に、大変そうですよね。

徳吉:ええ、そう思います。

川野:今の「介護施設をやらない」「M&Aをしない、応じない」という点に関して、楢井さんはどうですか?

楢井:介護施設をやらないのは、うちも同じですね。あと本業の理念やビジョンに沿わない事業はやらないっていうのも言っています。よくあるのは、コインランドリーを経営するとか。利益だけが目的のことはあまりしたくないと思っています。まあ、余裕がなくなったらするかもしれませんが(笑)。

ただ、“良いこと”に対してって、点数がつかないことが多いんですよね。だから、点数のつかないことでも“良いこと”をやりたいのなら、しっかりと利益を稼ぐこともやっていかなくてはいけない。

でも、薬局は“良いこと”をすればするほど、患者さんが患者さんを連れてきてくれるし、⾯処方箋もご持参いただける。そうしてコミュニケーションが増えることで、患者さんのお薬はもちろん、栄養のことなど暮らしにまつわることも含めて⼀元管理させていただくことができます。地域密着の⽬的を果たすことにつながるので、いい循環が⽣まれるなと思うんです。

だからこそ、点数がつかないことでも、ニーズがあることなら臆せずにやっていきたいなと思っているんですよね。そういう意味では、介護施設を始めるっていうのは少し違うかなと、僕も感じました。

川野:なるほど。地域のことをしっかり考えていくと、思考が自然と似てくるんですね。僕もすごく勉強になりました。


現場のスタッフと意識を揃える“徳吉流コミュニケーション”

楢井:徳吉先生の薬局は、取り組みに対する実行のレベルがすごく高いですよね。取り組んでおられる「人材の話」をお伺いしたいです。最初に言い出すのはリーダーの方々だと思いますが、そのフォローは自然と薬剤師さんたちが行うような社風になっているんでしょうか?

徳吉:そうですね。みんないい人なので、素直に受け入れて、すっと動いてくれますね。ただそうなるまでには、結構時間もかかっていると思います。たとえば、なにか新しいチャレンジををするときも、最初は全員に対していっせいにではなく、一対一で「こういう取り組み、どう思う?」話して個別に意見を教えてもらうようにしていました。

大企業なら役員だけが知っているような社内秘密も積極的に話しながら「一緒にやろう!」といった雰囲気を作っていましたね。そうすることで、現在では個別に話をしなくても、取り組みの目的や内容をスムーズに納得してもらえるようになってきています。従業員がまだ120人ぐらいなのでできることなのかもしれません。

楢井:いや、120人規模でそれができるのはすごいことだと思います。一対一で面と向かって話すことをすごく大事にされているんですね。

徳吉:そうですね。一対一で、目を見て、話をするのが一番いいと僕は思っています。なかには取り組みに対する反対意見を教えてくれるスタッフもいますが、それも一対一だからこそ聞けるものなのかなと。

楢井:たしかに、反対意見もあって然るべきですからね。実際に新しい取り組みを導入していくときは、メンバーを募って参加してもらっているんですか?

徳吉:基本的にはそういうことはしないですね。各店舗の担当者を立てたり、管理薬剤師や広報担当者と一緒に準備をしていくことが多いです。たとえばカケハシの「Pocket Musubi」を導入したときも、サポート担当の人を立てて、一緒に推進していきました。

楢井:なるほど。ひとりで先を走っていくというよりは、現場を回りながら全員で進めていくというスタイルなんですね。

徳吉:そうですね。現場によってやり方や目標の立て方が異なるので、それに合わせた形を考えると、一方的かつ一律に指示するだけだと、うまくはいかないと肌で感じています。


半数が県外からの就職者。6名の採用を達成した新卒採用の裏側

楢井:採用は、新卒の方の割合が多いですか?

徳吉:そうですね。今年は6名の新卒採用ができました。6名のうち3名は県外の方で、大分県、高知県、岡山県の出身です。

楢井:えー、すごい! そうなんですか。“More Than A Pharmacy”の意志に共感した方だったということですよね?。

徳吉:そうですね。

楢井:中小中堅チェーンの場合、“良いこと”をしていてもそれが学生さんたちに伝えにくかったり届きにくかったりしますよね。どういうやり方で“More Than A Pharmacy”の取り組みを届けられたんでしょうか。

徳吉:最初は、大学の説明会に片っ端から足を運びました。ただ、誰も来ないことが多々あったので、それと並行して、就職サイトを使った広報や、インターンシップを始めてみました。

インターンシップでは、薬局の説明ではなく「鳥取県ならではの暮らし」についての話をしました。鳥取県で暮らすと「こんな遊びができるよ」「こんなにおいしいものが食べられるよ」といった、学生さんにとって暮らしのイメージを持てるような話を意識していたんです。

薬局の取り組みの説明は1時間程度ですし、少し店舗を回るぐらい。あとは、遊ぶための水着や濡れてもいい服を持ってきてもらっていました。
一同:(笑)

楢井:そういうところでも個性を出して、他の薬局さんとは異なる印象を持って帰ってもらうわけですね。

徳吉:そうですね。インターンシップを始めた年は5〜6人だった参加者が、次の年は見学も含めて30人くらいいましたね。

楢井:ええ! そうなんですか。鳥取県観光協会から表彰されそう(笑)。

徳吉:コロナ禍にもかかわらず、たくさんの方に来ていただいてすごく良かったです。三重県にもおいしい食べ物やアトラクションがいっぱいありますし、楢井さんもどうですか?

楢井:薬局ではなく、伊勢神宮に集合してもらったらいいかもしれませんね(笑)。採用の面でも「鳥取県から出ない宣言」とリンクしているその姿勢、とても勉強になりました。


「公民館を制覇したい」徳吉薬局が考える今後のビジョン

楢井:そろそろ未来のお話も伺ってみたいなと思うんですが……今後のビジョンってなにかありますか?

徳吉:鳥取県で「徳吉薬局」としてのブランドを確立したいですね。僕は、ブランドって“世界観を作ること”だと思っているので、徳吉薬局の世界観をみんなに受け入れてもらえるようにしたいなと思っています。

以前、薬局関係者ではない方から「徳吉薬局の薬剤師さんは、他の薬局の薬剤師さんとなにか違う」と言っていただいたことがあって。しかも、複数人に。それがすごく嬉しかったんですよ。もちろんそれは薬剤師さんはじめ、薬局のみんなにとっても嬉しい話ではあるんですが、じゃあ、他の薬局さんと比べてなにが違うのかというと、その違いはわからない。他の薬局にだって素晴らしい薬剤師さんはたくさんいらっしゃいますから。

でも、もしかすると、そういう方が感じてくださっている「なにか違う」は、薬剤師さんの力だけではなく、世界観のようなものが影響しているのかもしれないですよね。地域活動を続けていくことで、地域のみなさんの心の奥底に我々の世界観が根付いていくんじゃないかと思っています。

だからこそ、長い時間かかるかもしれないですけど、この取り組みを真摯に続けていこうと思います。来年にはおそらく、地域活動で地域にあるすべての公民館を制覇できると思います。

楢井:すごい! それをカウントしているところもすごいですね!!
「地域活動」って言い方をすると薄っぺらい印象も受けますが、それだけ徹底していくと、「密着」といった言葉だけでは表しきれないカルチャー」が生まれていくのかもしれません。

徳吉:そうですね。やり抜くと、結構大きな価値が生まれると思っています。

楢井:病児保育のようなわかりやすい取り組みも大事だと思いますし、さりげない取り組みも含めて、総合的に認知されていくものかもしれないですね。

徳吉:調剤報酬の範囲にない取り組みが薬剤師さんの仕事につながることで、いずれ欠かせない価値になっていくと思うんです。それが「徳吉薬局さんてなんか良いよね」「徳吉薬局の薬剤師さんって素敵だよね」という反応につながってくれたら、すごくいいなと思っています。

楢井:徳吉薬局の薬剤師の先生方は、指示を出さなくても対人業務を一生懸命される方々なのでしょうね。

徳吉:本当に、一生懸命やってくれていますね。

楢井:そうですよね。そういう文化がもう醸成されているのだなと感じます。お仕事に対する誇りも強く感じていらっしゃいそうですし。

徳吉:ええ、だからこそ、みんなには自信を持って取り組んでほしいですね。一人ひとりが個性を発揮できる人になってほしいと思います。

楢井:薬局の点数はこれからどんどん下がっていくと言われていますが、こういう薬局さんは点数がフルについてくるのだと思います。やるべきことをやって、点数としての成果を上げて。かつ、地域に密着してシェアを上げることができれば、客数が増えるので、下がっていく客単価をカバーできますし。これからの薬局ビジネスを考えるうえでは大事な考え方だなと思います。

徳吉:点数のことはもちろん会議で議題に上がりますが、薬局や店舗では点数の話をしないんです。基本的には「患者さんとの関係はどう?」「喜んでくれている?」といった話のほうが気持ちいいなと思いますしね。

楢井:良いことにきちんと取り組んでもらうっていうところが一番大事なんですね。素晴らしいお話をありがとうございます。今度、蟹の季節になったら、鳥取へ遊びにいってもいいですか?

徳吉:ぜひとも。私も三重に行きたいですね。

楢井:伊勢海老のおいしい時期にいらしてください。甲殻類対決をぜひお願いします(笑)。

川野:いいですね。そんな楽しいツアーも決まったところで、締めに入りたいと思います。

楢井:いや〜とても楽しかったです。

川野:本当にありがとうございます。楽しかったので一瞬で時間が過ぎてしまいましたし、楢井さんがファシリテーターをしてくださったのでラクをさせていただきました。最後に、徳吉さんに恒例の質問をさせてください。徳吉さんにとって「MusuViva!」ってどんな場所ですか?

徳吉:私にとって「MusuViva!」はみんなの事情を知る場所だと思っています。SNSに薬剤師グループといったものもありますが、「MusuViva!」にはそれとは違ったゆるさがあると思います。みなさんの日常や疑問に思っていることがポンポンと投稿されていて、こういうこともあるんだと知ることもあって、すごくいい場所だなと。なので、スタッフにも使うことを勧めています。

川野:ありがとうございます。気軽に投稿してコミュニケーションできることは「MusuViva!」を通してカケハシが目指しているところなのかなと思います。それでは、今回はこのあたりで終わらせていただこうと思います。楢井さん、徳吉さん、ご出演ありがとうございました。

徳吉:こちらこそ。ありがとうございました!

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