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家族に医療人のいる“安心”を、あらゆる人に――KAKEHASHI創業ストーリー

薬剤師の業務負担を軽減し、患者さんへのさらなる価値提供を支援する電子薬歴システム「Musubi」を提供するKAKEHASHI。創業の背景には、代表 中尾の“ある原体験”がありました。今回は、起業のきっかけから、ミッション「医療をつなぎ、医療を照らす」に込めた思い、社名の由来まで、中尾自身に振り返ってもらいました。

・ 薬局、クリニックが“もう一つの家”だった幼少時代。
・ ベクトルを自分に向けていたMR時代。
・ “自分のため”から、“社会のため”に。
・ 少しずつ見えてきた、「薬局・薬剤師」の新たな可能性。
・ 偶然の出会いを、行動量で手に入れる。
・ 全国の薬局を飛び回って見えてきたもの。
・ KAKEHASHIは“間”をつなぐ存在でありたい。

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薬局、クリニックが“もう一つの家”だった幼少時代。

子どもの頃から、自分にとって医療や医薬はとても身近なものでした。というのも、母の職業は薬剤師。小学校低学年の頃は、学校が終わると日によっては母の勤める調剤薬局へ。バックヤードでテレビを見ながら、母の仕事が終わるのを待つ身近な場所でした。よく「アラレちゃん」を見ながら待っていたことを覚えています(笑)。

また、祖父は内科医で、小さなクリニックを営んでいました。母が祖父のクリニックに勤めるようになってからは、そこが私の“もう一つの家”に。学校終わりでクリニックに行き、そこから部活に出かけるという日々をずっと続けていたので、もはや医療は生活の一部。いま思い返すと、医師と薬剤師の役割の差なども、当時からなんとなく意識をしていたように思います。

私自身、子どもの頃はあまり身体が強いほうではなく、「頼れる専門家がそばにいる」ことの安心感は実体験として強く感じていました。ぼそっと「しんどいな」と言ったら、「だったらこうしなさい」とすぐにいろんなアドバイスが返ってくる。ある意味、過保護なくらいケアしてもらっていたんでしょうね。

この「すぐ近くに医療のプロがいてくれる安心感」を、あらゆる人が感じられるようにしたい。そのためには、どんなインフラや仕組みが必要なのか。幼いころの原体験が、いま私がKAKEHASHIを通じて成し遂げたいことにそのままつながっているんだなと改めて実感しています。

ベクトルを自分に向けていたMR時代。

身体が弱かった自分にとって、さまざまなお薬に救われたという思いは強く、大学卒業後に製薬会社への就職を決めたのも、それが理由の一つでした。

とはいえ、MRの仕事をはじめた当時の目的意識はほぼ自分に向いていました。仕事人として能力を上げたい。高い成果を出したい。お恥ずかしい話ですが、その欲求が原動力になっていました。

仕事は本当に大変でした。規模の大きな大学病院を担当していたのですが、ろくに経験もない自分が、各医局の教授・部長・医局員の方々にアポイントをいただかなくてはいけない。

どうすれば貴重なお時間をいただけるのかというと、杓子定規に製品の優位性をお伝えするのではなく、その先にいる患者さんに目を向け「こういうシチュエーションではこの薬がどう機能して…」というご提案をする必要があるんです。そうすると、必然的に薬学的な知識が必要になってくる。そしてそれを正しく、クリアにお伝えする能力も必要。相当タフな環境でした。

“自分のため”から、“社会のため”に。

しかし、それも4年ほど続けるなかで、少しずつ自分自身のスタンスに違和感を覚えるようになっていきました。

MRの仕事にはどうしても、コモディティ化した製品のシェアの取り合いといった側面があります。自身にベクトルを向けていた当時は、そこでいかに大きな成果をあげるかにポジティブに集中していたのですが、ふと、そのままそこに自分の人生をコミットし続けて満足できるのだろうかと考えるようになったんです。初めて、転職や独立といったキーワードが頭に浮かぶようになりました。

経営大学院に通い始めたのもその頃です。そこでマーケテイング、ファイナンス、アカウンティングなど勉強するようになり、ITをはじめ未知の業界のトレンドや、テクノロジーによるイノベーションの事例など、それこそ湯水のように浴びるようになって。

そうするうちに、転職という選択肢にも疑問符が浮かぶようになりました。自分が本当に果たしたい役割は、そもそもどこか別の会社にあるものだろうか。ITの会社を受けてみたところで、「患者さんが得する医療体験を作りたい!」と人事の方に話しても、ピンときてくれないんですよね。それでお見送りになるか、自ら辞退するかの繰り返し(笑)。

そうした経験を通じて、自分が本当にコミットしたいことに今すぐにでも本気になれる選択、つまり自分でやるしかないのかと考えるようになりました。

少しずつ見えてきた、「薬局・薬剤師」の新たな可能性。

そこからは、起業一本に方向性を絞って仲間集めをし、共同創業者の中川とサービスのアイデアをとにかく絞り出しました。今のMusubiの原型となるアイデアも、この時に生まれたものです。

当時から目を向けていたのは、医療情報の適切なデリバリーについての課題。インターネットによる情報流通の加速により、以前に比べて一般の患者さんが医療情報に接する機会は飛躍的に増えましたが、果たして「本当に必要な情報が、届くべき患者さんの手に渡っているか」というと、決してYESとは言えない状況が続いています。

例えば生活習慣病の患者さんの場合、自覚的な痛みが伴わないことも多く、自ら健康的な生活に正していこうとする意識が芽生えにくいという問題があります。またご年配の患者さんですと、主体的に情報を取りにいくことはもちろん、その情報が正しいかどうかを判断する意識も高いとは言えません。

こうした方々が、徐々に糖尿病や腎機能不全といった疾患に陥り、認知症を併発し、深刻な介護問題の要因となる……この負のロードマップはもうほぼ既定路線として見えています。しかし、誰もそれを止めうる有効な打ち手を見出だせてはいない状態です。

では、どうすれば止められるのか。患者さんやいつか患者となりうる方が、意識や自覚の有無を問わず医療情報や健康促進のアドバイスに自然と触れられる機会をつくり、結果的に健康意識が高まっていくというインフラを作ることが良いのではないか。そしてそれは、現在の医療体験や生活習慣のなかに、無理のない形で差し込んでいくのが有効なのではないだろうかと、そんなことを考えていました。その一つの方向性として「薬局・薬剤師」に目を向け始めたのも、その頃です。

偶然の出会いを、行動量で手に入れる。

悶々と考える時間と並行して動いていたのが仲間集めです。ぼんやりと見えつつあったサービスアイデアも、ビジネスとして成り立たなければ意味がありません。志を同じくし、事業面を担ってくれるパートナーを……という観点で仲間集めに走り、出会ったのが先ほども話題にのぼった共同創業者でありCOOの中川でした。

中川との出会いは、たまたまです。たまたまなのですが、自分自身、その偶然を得るための努力は惜しまなかったつもりです。

「こういう人に出会いたい」というペルソナを描いて、それに合致する方がどういう生活をしているか、すべて仮説で洗い出していったんですね。そして彼らがどんな場に顔を出しているだろうかと考えて、あとは片っ端からそこに自分も足を運び、出会った人にピッチしての繰り返し。

知人の紹介も含め、100人以上とはお話したと思います。私の話を聞いて、「良いですね、頑張ってください」という人、「興味はあるけど、自分ではないな」という人が99%。「それやろうよ」とコミットしてくれたのが、中川でした。

そこから2人で、お互いの家にホワイトボードを置いてひたすら議論の毎日。サービスモデルを40個ほど出して、どこに光明があり、どこに自分たちならではの優位性があるのか……数ヶ月を経てたどり着いたのが、Musubiの原案です。

全国の薬局を飛び回って見えてきたもの。

実はここからが肝で、実際にサービスとしての立ち上げに向けて動き出すにあたり、まずは自分たちが描いている仮説の精度を検証しなくてはなりません。私たちがとったのは、とにかく薬局の現場を自分たちの目で見て、自分たちの耳で薬剤師さんの声をお聞きすること。

とはいえ、私がMR時代に深く面識があったのは大学病院の薬剤部長さんのみ。その方に二名の薬剤師さんをご紹介いただき、そのお二人からさらにまた紹介をいただき……ツテをたどり、足をつかって全国を飛び回り、最終的には創業前に200名・創業後に200名の薬剤師さんとお会いすることができました。

400名の内訳もさまざまで、パートで働いておられる方から上場企業の代表取締役まで。こちらの思いに応えてくださり、これまでの業界背景や、これからの薬局・薬剤師に対する熱いビジョンを語ってくださる方も少なくありませんでした。

しかしながら、実際のオペレーションを見せていただくと、現実的に大変な思いをされていることも分かってきました。薬局・薬剤師として患者さんに最大の価値提供をしようとする上で、なにがそれを阻害しているのか。徹底的に整理して落とし込んでいった結果、見えてきたのが「薬歴の業務負荷」です。

薬局・薬剤師さんによる、患者さんの生活に踏み込んだ服薬指導の充実が、患者さんの医療体験を向上するうえでキーファクターになるという確信とともに、それを実現するには現場の業務負荷の軽減とセットでなくてはならない。まず現場のオペレーションを改善し、薬剤師さんに心と時間の余裕を持っていただくことができない限り、プラスアルファの価値提供に目を向けていただくことは現実的に難しい。この“現業務の引き算”をいかに実現するかがまず重要なんだという強烈なインサイトを得られたことが、電子薬歴システムとしてのMusubiの開発を大きくドライブしてくれたと思っています。

さらにもう一つ、大きな気づきだったのが、現在の薬局の多くが、多様な患者ニーズを捉えきれていないということ。その象徴とも言えるのが、街でもよく見かけると思うのですが、「全国どちらの処方箋も受けつけます」というあの看板です。

この看板があらゆる薬局に出てしまった時点で、どこも一緒だと思われてしまい、薬局は立地ビジネスと化してしまうのです。患者さんとしても、どこに行っても一緒なら、近くて行きやすい薬局を選ぶのは必然でしょう。薬局・薬剤師さんたちの「あらゆる患者さんを救いたい」という崇高な理念が、逆に自らを苦しめている部分があるのです。

実際、患者さんのニーズは実に多様です。疾患によって薬もさまざまですし、症状の重さによっては薬を処方してもらえるまでのスピードを重視している場合も少なくありません。そうしたさまざまなニーズを踏まえ、「自分たちはどんな患者さんのために、何を提供していきたいのか」という自分たちらしいサービスのあり方を再定義することができれば、薬局の存在意義もますます多様に、その価値も本質的に高まっていくだろうと感じました。そしてそれを考える余裕をつくるためにも、現状の業務負荷の軽減は必須なのだと。

ここに、Musubiの根本思想や、KAKEHASHIという会社の思いがあると思っています。

KAKEHASHIは“間”をつなぐ存在でありたい。

KAKEHASHIを立ち上げて3年弱、当然まだまだスタートラインに立ったばかりではあるのですが、わずかな期間で環境は大きく変わってきたなと感じています。

一つは、メンバーの存在です。手前味噌ですが、思っていたよりも早く、思っていた以上に素晴らしいメンバーたちが次々と仲間に加わってくれています。

もう一つは、オンライン診療やオンライン服薬指導など、今後の日本の医療の方向性を検討する場面で、私たちの声が求められる機会が少しずつ増えてきたこと。

薬局・薬剤師の現状のオペレーションに対して、想像にもとづく漠然とした課題認識ではなく、自分たちの目で耳で足で掴んできた具体的な現場の課題とその解決のイメージを、実例をもってお話することができる点に、ご期待をいただいているのだと感じています。

これは、私たちKAKEHASHIならではの強みの一つだと自認しているポイントです。

反対に、創業からどれだけ経とうと変わらないのは、「患者さんへの価値提供」を最大にして唯一の目的としている点だと思います。

私たちは、医療従事者のための会社ではなく、あくまでも患者さんのための会社です。そして医療従事者の皆さんが患者さんのために存在している以上、私たちは「顧客とベンダー」という関係である以前に、より良い医療体験を提供していこうという「同じ目線を持ったチーム」だという意識を持っています。

その思いが少なからず伝わっているからか、Musubiのユーザーさんの薬局にお伺いすると、皆さん快くお迎えくださって、一緒に写真を撮ってFacebookに投稿してくださったり、現場の薬剤師さんから感謝の言葉をいただいたりと、いつも勇気づけられています。

そもそも創業時にKAKEHASHIという名前を考えたのも、そんな思いからでした。KAKEHASHI=架け橋というのは、何かと何かの「間」にあって初めて意味をなすものです。決して主人公ではない。主役はあくまで患者さんと、医療従事者の皆さん。私たちはあくまで、その間をつなぐための存在なんです。

ミッションとして掲げている「医療をつなぎ、医療を照らす」という言葉に込めた思いも同様です。私たちは、既存の医療インフラにとってかわる何かを求めているわけではありません。目指しているのは、医療と患者さんの関係性をより良くするためのお手伝いをすることです。

もしかしたら、私がそうだったように、地域の住民の方々にも家族に医療従事者がいるのと同じくらいの安心を感じてもらえる状況を作りたいのかもしれません。そのためにも医療従事者の業務の負担を減らし、本来発揮されるべき価値を照らす仕組みを作りたいと思っています。医療をつなぎ、医療を照らす。そんな会社がKAKEHASHIです。

世界に先駆けて超高齢化社会を迎える日本において、そう遠くない未来に、患者さんが不安なく生活できる医療インフラを完成させたい。そこに、KAKEHASHIという名前があってもなくても構いません。黒子役としてでも、その一助となる仕事ができたらと考えています。

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