“日本の医療体験をしなやかに”を目指し「Musubi」が“薬局体験アシスタント”としてリニューアルした舞台裏
2020年7月2日、株式会社カケハシは薬局体験アシスタント「Musubi」のリニューアルを発表しました。薬局での患者さんの体験を変え、未来に向けて薬局運営もよりよく変えていく——薬局と患者さんのサポートを考え続けてきたカケハシが、「薬局体験の向上」をキーワードに新サービスを提案します。
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「薬局体験」をさらに一歩進めるための大幅リニューアル
三宅:私たちカケハシは「日本の医療体験を、しなやかに。」をミッションに、薬局における薬剤師と患者さんの体験をより良いものにしていくサポートをしています。
2017年8月に提供を開始した電子薬歴・服薬指導システム「Musubi」は、薬歴作成に加え、薬剤師から患者さんへの服薬指導をサポートするシステムを備えていました。多忙を極める薬局業務の効率化を促すとともに、薬剤師と患者さんの円滑なコミュニケーションの手助けをするものです。
2017年8月のサービス開始以来、Musubiの導入薬局は着実に増えています。一方、この3年間で薬局経営者や現場薬剤師にヒアリングするなかで見えてきた新たな課題もあります。
そこで、新たに「薬局体験」という考え方を提案し、サービス全体で「薬局体験の向上」を支援していくことに。私たちが考える薬局体験とは、薬局サービスの受け手である患者さんと、サービスの担い手である薬剤師、双方の体験のことを指しています。
このたび、その「薬局体験」をさらに一歩進めるべく、Musubiのリニューアルを実施するに至りました。電子薬歴と服薬指導というこれまでの領域から、薬剤師と患者さん双方の体験全体を変えるお手伝いをするものに進化します。
今回のMusubiリニューアルにおけるプロジェクトマネージャーの三宅
三宅:今回、Musubi導入時のサポートプログラムも大幅にリニューアルしました。これまでも、ユーザーである薬剤師の皆さんに集まっていただき、レクチャーや質疑応答などスタンダートな研修を実施してきました。しかし、薬剤師は普段から業務量が多く、さらに日々更新される医療情報は膨大なもので、常に知識をアップデートしなければならない。
導入当初のまとまったレクチャーに代えて、ユーザーの状況に合わせきめ細かくサポートできるようプログラムを見直しました。1回20〜30分のセッションをマンツーマンで実施。2カ月〜3カ月にわたり継続して、少しずつマスターしていただくことで、段階的かつ確かな定着をサポートします。
トライアルでは、業務の浸透度や満足度のスコアが圧倒的に高く、実際に業務の効率化も非常に良いスコアが出ています。プロダクトを業務にしっかり浸透させていくのも私たちの仕事だと考えていますので、自信をもっておすすめできるプログラムになっていると自負しています。
薬剤師が確認する「おくすり手帳」から、薬剤師と患者さんの「連絡帳」へ
三宅:これまでのMusubiは薬局内の業務システムでしたが、患者さん向けのスマートフォンアプリを提供開始します。おくすり連絡帳アプリ「Pocket Musubi」は、服薬期間中のフォローを主目的としたサービスです。
調剤薬局で薬をもらったとき、薬剤師から薬剤の効果効能や副作用、飲み方などについて説明があると思います。本来ならば、薬を持ち帰り服薬しているあいだにも、「副作用は出ていないか」「正しい方法で服薬できているか」といった薬剤師のフォローは必要で、2020年9月の薬機法改正では服薬期間中のフォロー義務化が開始されることになっています。
しかし現実的には薬局の外の患者さんで、例えば服薬直前などのタイミングに対して細やかにフォローしていく機会はほとんどありません。そこで、患者さんにアプリを使っていただくことで、服薬期間中のフォローを支援できるようにします。
アプリ開発の統括をしている工藤から詳しくご説明しましょう。
薬剤師で「Pocket Musubi」プロダクトオーナーの工藤
工藤:「Pocket Musubi」には、薬局から提供されるQRコードを介して服用薬データが入力されています。そこへ、体温や食事の内容、薬を用法に従って飲んだかなど、患者さんが簡単な操作で記録できるようになっています。
薬剤師はPocket Musubiの管理画面で患者さんのデータを見て、療養中の状況を把握し、適切なフォローを行います。また、薬剤によって必要なフォロー情報を自動で患者さんのアプリに送信できるようになっています。
私自身、薬剤師の経験の中で痛感していたのですが、患者さんに薬剤をお渡しするときにもちろん説明はするものの、5分にも満たないわずかな時間に、飲み方や注意点、副作用のことなどすべてを一気にお話しなければならないため、なかなか患者さんの頭に残らないんです。
薬剤師からお伝えした情報が本当の意味で必要になるのは、患者さんが家に帰って薬を飲むとき、副作用の症状が出てしまったとき、あるいは長期の服薬期間中に、守るべき服薬方法がおろそかになってしまったときなど、薬剤師が不在の場面が圧倒的に多いわけです。
改正薬機法の施行に向けて、他社でも服薬期間中フォローを目的としたツールがリリースされていますが、主にチャットベースのサービスです。患者さんが能動的に薬局に問い合わせをするような文化は、まだ醸成されているとはいえません。そもそも患者さん自身は、副作用が出ていても薬のせいだと気づかない人も多いんです。そこに、薬剤師の目によるチェック機能が働いて初めてコミュニケーションが生まれるのです。
薬局や薬剤師の価値は本来、患者さんが困っているその時にサポートできるということが最も重要だと思います。患者さんへの負担は少なく、薬剤師の業務効率も守りながら、そのタイミングを検知するために、この「Pocket Musubi」を開発しました。
患者さんの信頼を獲得して「この薬局に行きたいんだ」と思ってもらえるようなかかりつけ薬局として機能していくことは、患者さんの体験をより良いものにするだけでなく、経営面でも必要とされることです。
現在の調剤報酬制度では、単に薬を出すだけでは収益が望めなくなっています。高度なサービスを患者さんに提供することが薬局経営の肝となっている今、私たちのプロダクトを仕組みとして取り入れていただき、本質的な薬局の価値提供を通じて、信頼関係の強い患者さんを増やしていく一助にしていただきたいと考えています。
薬局経営の次の一手をサポートするために薬局業務を"見える化”
三宅:次は、薬局業務"見える化"クラウド「Musubi Insight」です。これは薬局に特化したBI(Business Intelligence)ツールで、Musubiを導入していただいているうちに蓄積される膨大なデータを分析し、経営に役立てていただこうというものです。このサービス開発は、林が統括しました。
薬剤師で「Musubi Insight」プロダクトマネージャーの林
林:昨今、BIツールを導入して経営の意思決定に役立てようという企業が増えています。手作業でデータ分析をしようとすると集計に膨大な手間がかかりますし、多岐にわたるデータをどう組み合わせて使うのか、分析設計は簡単ではありません。
一般的なBIツールは、その一部工程を圧縮することができます。「Musubi Insight」は、調剤薬局に特化したBIツールであることからすべての工程が自動化されます。
薬局の現場では、IT化やクラウド化はあまり進んでいないというのが現状です。データ分析をしようにも、それぞれの薬局でデータを出力し、それをまとめ直して集計して……というのをすべて手作業で行うのではタイムリーな分析は難しく、そもそもオペレーションコストが膨大すぎて敬遠されがちでした。
「Musubi Insight」では、そのすべてが自動化されているため、インターネットにつながるパソコンさえあれば、いつでもどこでも分析結果を確認することができます。ユーザーインターフェイスも簡潔さを追求し、ログインしてからわずか3ステップで目的のデータにたどり着けるようにしています。
分析軸は「薬歴業務系分析」「収益性分析」「患者関係性分析」の3つです。なかでも「患者関係性分析」は他社にないユニークなもので、患者さんのリピート率などを可視化します。
分析軸を絞り込むからには、薬局経営で必要とされる指標がどこにあるのか、ニーズをしっかりとつかむ必要があります。また膨大なデータをどう扱えば求める分析値が得られるのか、データ設計の力も求められます。私たち開発チームには薬剤師、デザイナー、クラウドエンジニア、データサイエンティストといった多様なメンバーが揃っており、それぞれの視点を交差させて、簡便かつ実用的なBIツールの開発を目指しました。
私も薬剤師であり、つねづね思っていたのですが、医療の世界ではEvidence Based Medicine(根拠に基づく医療)を大前提としているのに、私たちの業務運営は“勘と経験”に基づいているというのが現状で、そこに矛盾を感じていました。「Musubi Insight」の活用で「根拠に基づいた薬局経営」を実現することによって、より患者さんに対して適切な価値を提供していただけることを願っています。
薬局業務改善と患者さんのサポート、両輪のサービスで薬局体験の質を高めていく
三宅:今までMusubiのリニューアル内容をご紹介してきました。サービスが薬局向け、患者さん向けと多岐にわたりますが、私たちが目指すのは、患者満足度と薬局の働き方改革の支援を通じた“薬局体験”の向上です。
日本の医療をより良くするために、薬局における患者さんの体験価値を高めていくことをMusubiでは追求してきました。一方で薬局において患者さんに価値提供が生まれるには、薬局業務の改善も不可欠です。
医療業界は、ミスがなくて当たり前、ミスがあれば深刻な問題にも発展しかねません。薬剤師の皆さんは膨大な日常業務に対応し、日進月歩の医療情報をアップデートしながら真剣に患者さんに向き合っています。
その状況で薬局体験を向上していくには、患者さんと薬剤師、どちらかのフォローだけでは不十分です。両輪のサービスを提供することで、薬局業務が改善され、患者さんにとってはより良い体験が生まれると考えています。
工藤:時々、昔ながらの薬局ってどんな感じだったかなと考えるんですが、何か困ったことがあったとき、まずは薬局に行って相談していたんだと思うんですね。
「Pocket Musubi」は、調剤後に薬局外でのフォローという、薬を飲んでいる期間に使うサービスになっています。薬局では、薬の話だけでなく、栄養の話も聞けますし、サプリメントの取り扱いもあります。病気になれば専門的なサポートが受けられるんです。健康に関して気になることがあったら「薬局で相談しよう」と思ってもらえるような信頼関係を構築する一助を、私たちのサービスが担っていきたいと思います。
林:「Musubi Insight」が目指すのは「根拠に基づく薬局運営」です。これが実現することで薬剤師が適正に評価され、データに基づいて良いサービスを患者さんに提供することで収益も向上する、サステナブルな薬局運営がなされます。「患者さんと薬剤師の信頼関係」をしっかり可視化して高めていくことで、健全な薬局運営をサポートしていきたいと考えています。
三宅:対物業務はシステムで効率化し、本来時間をかけるべき対人業務に注力していただき、またツールでサポートできる部分でさらに患者さんへサービスを充実させていく。そこでできた余裕で、さらに新しい試みにチャレンジしていく。私たちカケハシのサービスによって、薬局にそういった良い循環が生まれてくることを願っています。