明日の医療のインフラを目指して。CEO中川が語る「カケハシと私の5年間」【後編】
創業から5周年を迎えたカケハシ。代表取締役CEOの中川貴史が、カケハシのこれまでを振り返り、これからの展望を語るインタビューの後編です。
前編はこちらから
https://blog.kakehashi.life/n/n53be84d54ae6
急拡大する組織を襲った成長痛
— いよいよ組織拡大というタイミングで、またしてもハードシングスが。
ひと言でいうと、“急速な組織拡大に伴う成長痛”ですね。
2018年の秋頃から社員が急増し、入社3ヶ月以上でベテランと呼ばれるような状態でした。私をはじめ経営陣は採用にかかりっきりになり、組織の意思決定やミッションステートメントの策定、新入社員のオンボーディングなどに時間をかけられていなくて。
メンバーの数は3〜4倍になったものの、歯車が噛み合わず、事業としてパフォーマンスを発揮できない日々が続きました。月末には、目標の半分もいってないのにしっかりと振り返りがされないまま飲み会が始まってしまうような状況でした。
さすがに危機感を覚え、まずは案件の管理から着手。そして、営業組織だけではなく、カスタマーサクセスやオンボーディングといったチーム組成に取り組みました。2019年はひたすら組織課題の解決に注力していましたね。さらには各チームのミッションを明確にしたり、レポートラインを整備したり……とにかくきちんと価値をデリバリーできる組織を構築することに専念した1年でした。ミッション・ビジョン・バリューを公開したのも、このタイミングです。
— カケハシにとって意味のある1年半でしたね。
そうですね。その後、5〜10年後の医療業界のDXを見据えて「医療がオンライン化されて求められるITインフラのあり方とは」「いかにして将来像を考えていくべきか」といったテーマで大手ドラッグストアや大手チェーン薬局と徹底的に議論する機会も増えました。結果としてパートナーとして選んでいただき、きちんと価値も提供できました。
— 今後の展望は?
いま私たちが立っているのは、「薬局向けのシステムをつくっている会社」というイメージから脱却し、医療のあり方を変えていくプラットフォーマーへと進化していく分岐点。これからは、イノベーションをさらに加速させていくフェーズです。プロダクト群を広げながら、テックドリブンなイノベーションを生み出し、世の中に新しい価値をハイスピードで提供していきたいですね。
手前味噌ですが「カケハシが止まれば日本の医療が止まる」といっても過言ではないくらい、医療におけるITインフラのクリティカルな部分を担っていかなくてはならないと感じています。
たとえば、知識のある薬剤師さんがきちんと見える化され気軽に相談できたり、アプリを使ってオンラインで薬剤師さんと話した次の日には薬が手元に届くようになったり。薬局を起点に、医療全体をよりよくしていく事業を展開していきたいと考えています。
「高潔」なメンバーこそ、カケハシ最大の強み
— 事業をより加速させていくうえで、いま最も必要なものは?
やはり人ですね。「社会のために正しいことをやりたい」という方をお迎えしたいです。
バリューに「高潔」を掲げているように、カケハシは「社会のために正しいことをやりたい」と心の底から思っている人ばかりの会社です。私たち経営陣を含め、みんな仕事のモチベーションが「お金を儲けたい」や「出世したい」ではないんですよね。同僚を出し抜いて手柄を独り占めしようとする人はいないし、自然と助け合う文化が定着している。医療のバックグラウンドはなくても全く構わないので、社会の課題に真正面から向き合って価値を生み出すことに関心がある方と一緒に働きたいですね。
国や医療従事者の方々から「カケハシなら最後まで信じられるよね」と思ってもらえるような会社であり続けたい。医療業界で巨利を得るビジネスは他にもあるかもしれません。でも、社会にとって望ましくないやり方を選択すれば、5年かけて積み重ねてきた信頼を一気に失ってしまうし、カケハシも終わりです。だからこそ、常に「高潔」であり続けたい。「高潔」こそが、カケハシにとって最大の強みだと思います。
— 改めて、カケハシでの働き方について。
比較的自由度は高いと思います。コロナ禍以前より、リモートワークを実践しており、北海道や大分、京都、軽井沢や湘南に住んでいる人もいます。だから、コロナ禍になってからも「オフィスにいる人が少し減ったな」と感じる程度で、自然に対応できました。時間や場所の制限はないので、成果を出すためにベストな働き方を自分の人生観の中から選択してほしいと思っています。
勤務時間に関しても、コアタイムが一切設定されていないフレックスタイム制、ないしは裁量労働制です。極端な話、スケジュールに応じて1分だけ働くという日があってもいいかもしれないし、カフェで作業しても、保育園の送り迎えをしながらミーティングに参加してももちろん問題ありません。
ただ、成果には強くコミットしてもらう必要があるし、フリーライダーは許されません。性善説の上に成り立っている働き方なので、自己管理ができることはもちろんのこと、仮に放置されたとしても新しく自らタスクを設計して「これをやったら事業が前に進むよね」と自律駆動的に走れる人たちでなければ、活躍するのは難しい環境だと思っています。
「コロナ禍でリモートワークになり、自宅PCのカメラをONにして監視されています」という話を聞くことがありますが、発想自体めちゃくちゃイケてないと思っていて。私たちは成果を純粋に評価すればいいし、オフィスという空間がなくても成果が出せる人たちだけが残る会社でありたいと思っています。
カケハシは、スタートアップとして事業を成功させることと同時に前時代的な働き方に対するアンチテーゼとして新しい働き方のロールモデルになることも大事だと考えています。この先も苦労はたくさんあると思いますが、最後まで性善説に立って、一人ひとりを信じて自由な環境下で自律的に成果を出す集団としての姿勢を貫きたいですね。
経営者として、人間として、成長できた5年間
— 自由度の高い環境下でも成果が出るように会社として実践していることは?
バリューにも掲げている「情報対称性」は非常に大切です。「情報対称性」とは、ポジションや部署を問わず、良いこともそうでないことも含めてすべて情報をオープンにすること。
離れていると、他のメンバーが取り組んでいることや課題に感じていることがわかりにくく、仕事を前に進めるのが難しい場面もあります。また、会社の方向性が見えなければ、メンバーの一人ひとりが自律的に判断をし成果を出すことも難しいでしょう。このような課題を解決するため、Slackのチャンネルや社内のドキュメンテーションをすべて公開しており、非同期でも社内の状況を理解できるようにしています。
現在は会社の規模もどんどん大きくなっており、情報量が多すぎてすべてをキャッチアップすることが難しくなっているので、重要なものは各チームのミーティング内でディレクターから展開することで取りこぼしがないようにしていますが、粒度を問わずあらゆる情報が入手できる状態になっているからこそ、誰もが戸惑うことなく自由な働き方を実現できているのではないでしょうか。
— この5年間で中川さん自身に変化は?
挙げればキリがないのですが、大きいところだとマッキンゼー時代の経験をアンインストールしたことですね。
実は私、マッキンゼー時代のマネジメントスタイルは、鬼のように厳しいものだったと思います。私が担当していたプロジェクトはいずれも高いパフォーマンスを出していたのですが、同時に求めるレベルも高かったので、チームメンバーには大きな負荷をかけていました。
マッキンゼーという環境で、成長志向の強いメンバーばかりだったので、結果としてうまくはいっていましたが、スタートアップのようにいろいろな職種やバックグラウンドの人がいる環境では通用しませんでした。だから、ある意味自分が当たり前だと思っていた感覚をアンインストールし、ゼロベースでコミュニケーションを取るようにしています。
そういう意味では、カケハシでの5年間はメンバーに人間として大きく成長させてもらいましたね。コンサルティングファームでのマネジメントと会社における組織マネジメントは全くの別物。
一人ひとりが働きやすい環境づくりから、経営者としての立ち居振る舞いまで圧倒的に経験が足りていなかった部分を、周りのメンバーが温かく見守ってくれたおかげで乗り越えることができました。組織づくり、マネジメント、それ以上にひとりの人間としてのあり方も数多く学べたような気がします。
いまのところカケハシの事業は好調で、私のような人間を経営者として育ててくれた意味でも、5年間支えてくれたメンバーには感謝しかありません。皆がいなかったら、今の自分もカケハシも絶対にあり得なかった。とはいえ、明日の医療のインフラを作るという私たちのチャレンジはまだまだこれからです。山登りでいえば、一合目にすらたどり着いていないかも…。
また次の景色が見えるところまで、皆で一緒に進んでいきたいですね。そしてそのために、私自身もっと自分を磨いていかなければいけないと強く思っています。