医療適正化のカギは“患者と医療の関係”にある——カケハシが「Patient Engagement プロジェクト」で目指すもの
はじめまして。カケハシの髙田です。
もともとMusubiのセールスやマーケティングを担当していましたが、その経験をもとに現在、新たなプロジェクト「Patient Engagement」の立ち上げに携わっています。
ミッションに「日本の医療体験を、しなやかに」と掲げているカケハシですが、「しなやかな医療体験とは?」という問いに対する答えの一つにするべく取り組んでいるのが「Patient Engagement」プロジェクト。今回はこの新たなチャレンジについて、ぜひご紹介させてください。
なお、この記事は予備知識の有無に関わらず「なるほど!」と感じていただけたらという思いで作成しました。お読みになる方によっては内容に不足を感じられるかもしれませんが、あくまで概要を掴んでいただくためのものということで、ご容赦いただけると幸いです。
問われる医療の適正化。でも、その基準って何?
世界に先駆けた超高齢社会に直面している日本。増え続ける社会保障費への対応。医療・福祉の担い手不足など、すでに大きな社会課題が顕在化しています。
国民皆保険という素晴らしいシステムのもと高い水準を維持している日本の医療ですが、今後もその高いレベルを保っていく上でも、コスト的な観点も含めてより最適な状態を目指すための抜本的な変革は、もはや避けては通れないでしょう。
では、最適化された医療とは、いったいどのような状態を指すのでしょうか。
理想としては、目の前の患者さんに対して“過不足のない対応”で“最大の成果”を得られている状態が最も効率的だと言えます。
しかし、ここで一つ問題が。
医療行為やその成果をどのように評価するのか——実はこれが非常にむずかしい問題なのです。
ドクターの問いかけに、あなたはどう答えますか?
一般的にイメージされる医療といえば、医療従事者が患者さんからヒアリングした情報をもとに診断を行い、必要と思われる処置を施す。そして、その結果を踏まえて、さらに必要と思われる医療を提供していく。こうした流れではないでしょうか。
でも、よくよく考えてみると当然の事実に気づかされます。限られた時間の限られたやり取りから患者さんの状態を的確に把握すること、それって実は極めて困難なことではないか、と。
そう、患者さんのスタンスやアクションといった要素が医療に及ぼす影響って、決して無視できない大きなものなんです。
もう少しわかりやすく例をあげてみましょう。患者さんになったつもりで想像してみてください。
とある病院に通院中のあなた。前回の通院でお薬が処方されました。1日2回、毎日飲むことで効果を発揮する薬です。
しかし2回のうち1回をよく飲み忘れており、あまり効果を実感できていません。
さて、次の診察でドクターから「お薬を飲んで調子はどうですか?」との問いかけが。あなたはどう答えますか?
飲み忘れがあることを正直に伝えられるでしょうか。
なんとなく言いづらい気持ちになったりしませんか?
先生に怒られたり、ダメな患者と思われたりするんじゃないか。まあ薬を飲む前と比べたらマシになった気はするし、飲めていないことは言わず「良くなっている気がする」とだけ答えておこうか……
そんな心理がはたらいてついごまかしてしまった経験、私も何度となく身に覚えがあります。しかしその回答次第で、医療従事者の判断が変わるかもしれないのです。
飲み忘れの実態が表に出なかったことにより、今の治療に効果があると判断されてしまうかもしれません。同じ処置を繰り返した結果、病気が悪化してしまう恐れもあります。
見方を変えるとそれは、効果性に乏しい薬が処方されつづけている、あるいは服用されないまま残ってしまうという、社会保障費上の問題だったりもします。意外と忘れてしまいがちですが、薬の費用は国の社会保障費から負担されているんです。
一方で、飲み忘れや効果の実感がないという情報があれば、例えば1日1回の薬に変更するなど、その患者さんに対するより適切な処置を検討できるかもしれません。社会保障の観点でも非常に効率のいい状態です。
そう、医療の効率化というのはただただ医療業務やインフラの改善次第でどうにかなる問題ではなく、実は「患者さんと医療の関わり」というところに大きなポイントがあるのです。
Patient Engagement ってなに?
前置きが長くなりましたが、この「患者さんの医療への関わり方」をサポートしていくための取り組みが「Patient Engagement」プロジェクトです。
ここで言うPatient Engagementとは、患者さんが医療に対して前向きに、積極的に関わろうとする意思のこと。
Engagementには「契約」「約束」という日本語訳もありますが、それよりは「関わり・関与」という言葉のほうがピンときやすいかもしれません。ビジネス用語に、会社や事業に対する社員の意識を表す「従業員エンゲージメント」という言葉がありますが、まさにそのイメージです。
専門的なところでは、2016年に世界保健機関(WHO)が「Patient Engagement」を提起するレポートを発表し、その後2019年に「Enhance patient and family engagement for the provision of safer health care」と題したミーティングレポートを公開。
どちらのレポートでも安全な医療を提供するための重要な要素として「Patient Engagement」が提唱されているのですが、私なりにざーっくり読み取ってみますと、
『より安全な医療の提供を目指して、患者さん自身の医療に対する積極的な関与を促進・支援するために、患者さん本人、さらに家族や介護者などいわゆるケアギバーへのアプローチを通じて、医療に対する患者さんの行動を変えていくことが重要』
という主旨であるようです。
医療に対する積極的な関与がどのようなものなのか、これという正解を言葉にするのがなかなか難しい問題です。
とはいえ、患者さんが病気とともに生活を続けていくうえで「どのような状態を理想とするのか」を整理し、医療従事者に良いことも悪いことも事実ベースできちんと伝えること。
そして、医療従事者から自分自身(あるいはケアギバーさん)で受けたい医療を選択するために必要な情報を提供してもらうこと。
こうした態度や行動が大事であるということに間違いはないと思います。
薬局・薬剤師さんとの“共創”で、患者さんの意識と行動にアプローチ
ここからは、私たちカケハシが「Patient Engagement」にどうアプローチしていくのか、ご紹介していきます。
調剤薬局向けに複数のプロダクトを展開しているカケハシですが、実はどのプロダクトにも「薬剤師さんと患者さんの関係構築を支援したい」という思想が根づいています。
一般的にはなかなか知られていないところも大きいのですが、医薬品の専門家として症状に対する効果・効能や副作用をチェックしたり、時にはより踏み込んで適正な薬の活用をサポートしたりと、薬局・薬剤師さんから患者さんに提供される医療的な価値というのは実はたくさんあります。(だからこそ、カケハシはそれをサポートする必要を感じたわけですね)
たとえば、薬歴・服薬指導システムの薬局体験アシスタント「Musubi」には「健康アドバイス」というコンテンツがあり、患者さんと薬剤師さんが一緒に画面をみながら、薬のことや健康促進についてコミュニケーションできるようにと設計されています。
服薬フォローシステムの「Pocket Musubi」は、“おくすり連絡帳”と銘打っているとおり、薬局をはなれたところでの患者さんと薬剤師さんのつながりを支援するものです。
薬局向けのBIツールである「Musubi Insight」の開発背景は、薬剤師さんが患者さんの来局頻度を把握し、必要なフォローがしやすくなるように、との思いがあります。
もうお分かりかと思いますが、私たちカケハシが目指すPatient Engagement最大のポイントは、薬局・薬剤師のみなさんとの”共創”だということです。
薬局・薬剤師さんたちの普段の活動をサポートする形で、患者さんへの情報提供がやりやすくなるようなコンテンツをご用意したり、患者さんからのフィードバック情報を医療のステークホルダーにつなげるなど、全国の薬局・薬剤師さんを軸としたPatient Engagementを目指しています。
そして実は、いくつかの成功事例も生まれはじめています。
前述したMusubiの「健康アドバイス」のコンテンツを使って、慢性疾患の患者さん向けに継続的な服薬の重要性をお伝えする取り組みを行ったところ、患者さんの服薬状況に20%程度の向上が見られたのです。
現在も、糖尿病の患者さんや吸入薬をお使いの患者さん、がん疾患の患者さん向けに同様の取り組みが効果的なのではと考え、準備を進めているところです。
今後は、効果や副作用といった患者さんからのフィードバック情報に関して、薬局・薬剤師さんと病院の連携をサポートするプロジェクトや、患者さん自身が自らの症状や治療の満足度を評価することの有用性を検証するプロジェクト※ にも着手していく予定になっています。
※医学的用語で Patient Reported Outcome(PRO/患者報告アウトカム)といい、カケハシ社内にプロジェクトの推進と論文発表を目指す専門チームが発足しています。こちらについては、別の記事で詳しくご紹介する予定です。
Patient Engagementが、これからの医療の礎となるように
最後にちょっとだけ自分語りを。私は薬剤師資格を持っており、以前は製薬会社に勤めていました。カケハシにジョインしてからは、セールス・マーケティングの担当として多く薬局・薬剤師の方々とお話する機会に恵まれました。
前職で知った医師の方々の抱える課題感と、製薬会社の一員として感じる課題感。そしてカケハシで痛感した、薬局・薬剤師の方々の課題感。さらに、自分自身や家族が一人の患者となった際に直面する、医療に対する課題感。
Patient Engagement プロジェクトを通じて、そのすべてに向き合うことのできる可能性を感じており、メンバーの一人として万感の思いです。
個人の生き方や価値観が多様化している時代において、患者さんが医療に望むことも決して一様ではないでしょう。カケハシのミッションにある「しなやかな医療体験」というのも、まさにそんな社会に応える医療のあり方を示唆したものです。
※より俯瞰した社会システムとしての医療のあり方について、当社の西田が「日本版Value Based Healthcare」というキーワードを用いて語った記事もあるので、ぜひあわせてご覧いただきたいです!
自分や家族の病気とどのように向き合っていくのか——誰もが日常生活を幸せに過ごすための選択ができる医療を目指し、患者さん自身が医療に対して主体的に参加していくための支援を、このPatient Engagementプロジェクトを通して実現していきたいと思います。
医療の専門性の有無に関わらず、この社会課題の解決を目指した取り組みに何かを感じたら、ぜひ、カケハシというチームで働くことを選択肢の一つに加えてみてください! ミッションに対して真っ直ぐで熱量をもったメンバーが揃った環境だということには自信があります。ぜひいろんなメンバーとお話ししてみてほしいです。
それでは、また嬉しい続報をお届けできるよう頑張ります🔥